もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ









会計室に遊びに行ってからと言うもの、私は暇があれば会計室に遊びに行き団蔵の書いた帳簿の解読に勤しんでいた
私が会計室に居るのが普通になり、寧ろ間違ってたりすると教えるから居てくれると助かるって言われた

ハチも私が遊びに行く先が一つしかないから姿が見えなくなってもあんまり気にしないようになった
ただ、小屋が壊れて虫が逃げ出すと探すの手伝ったりするけど


そんな毎日が、私は楽しくて仕方がない
人の役に立てるってすごく嬉しいんだって思えた
だから、忍狼になるために、いろいろ教えてくれると、蒼兄や他の忍狼に言われたとき
お母さんがなにか言いたそうに瞳を揺らしたことに、私は気づかなかった



指笛の音の意味
指揮の意味
忍狼の役目


忍狼とは人間・・・敵を主のために殺し、時には死体を食べて証拠を無くす役目を持つ



私は教わったときに、ひどく恐怖を覚えた
狼は本能的に餌を求めて人間を殺すことなど知っている
けれど、私に・・・同じ人であった私に、人を食べろと
そう、告げられた





怖い・・・怖い怖い怖い怖い・・・っ!
人を食べたら私は私じゃなくなってしまいそう・・・!
でも私がここにいるためには忍狼にならないと駄目なの
どうすればいいの、いやだ、なりたくない、でも駄目
嫌だ、助けて・・・・!




―――――
side:文次郎



壬琴が忍狼になる訓練を始めたと竹谷から聞いた
おかげで団蔵の象形文字を解読できる貴重な存在が来なくなってしまったから、仕事が壬琴が着ていた頃よりもはかどらなくなってしまい、どうしても徹夜をしなければならなくなってきた
俺は下を向いてた顔を上げ、ぐっと伸びをした
長時間同じ体性でいた体がぽきぽきと鳴る

他の委員を見れば、既に疲れたのか半分寝ているやつも居た
壬琴は帳簿の間違い等も指摘していたため、今回は進みが速い
終わってもいいか、と考え、声をかけた


「今日は終わりだ」
「え!」


嬉しそうな顔と、怪訝な顔、二通りの反応があった
まあ、怪訝な顔なんて、三木ヱ門しか居なかったが


「・・・いいんですか?」
「あぁ、今回は進みが速いからな」


各自部屋にもどれ、と声をかければ、各々道具を片付けて戻っていった
俺も道具を片付け、部屋に帰ろうと廊下に出たその時
月を見上げる壬琴の青白い毛並みの背中が見えた




その背中は何かを嘆くようで









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