もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ








私が1年生の団蔵の字を解読していると、人の気配が近づいてきた


「どうした、壬琴」
【・・・ハチ?】


私が呟いたとき、会計室の障子が開いて、ハチが顔をのぞかせた


「あ、壬琴、本当にここにいたのか」
【本当にも何も孫兵に伝えてきたよ】
「まったく、勝手にどこか行くなよ、探さないといけないんだからな」
【だからぁーっ孫兵に言ったってば!】


私とハチのやりとりを、文次郎はちょっと迷惑そうに見た
邪魔になってるんだろうなー
邪魔しないって言ったのに・・・
仕方ないなぁ


【文次郎、私帰るね】
「あぁ、またな」


私はぱたんとしっぽを振って、会計委員の子たち一人一人にすり寄ると、ハチの袖を甘噛みして引っ張りながら会計室を後にした



―――――
side:文次郎



「ふわふわしてたな!」
「賢いですね、この私には負けますが!」
「また来るかなぁ」
「べ、別にもう来なくても・・・」


壬琴と竹谷が会計室を去った後
左門と団蔵は壬琴が気に入ったようで、三木ヱ門、佐吉は壬琴を認めたようだった
俺もまさか壬琴が団蔵の字を解読できるとは思っておらず、うれしい誤算だった


それにしても
壬琴は確か生まれてから3ヶ月だったか
3カ月で、あんなにちゃんとした受け答えはできるものなんだろうか・・・
狼だと言うことで人間とは違うだろうが、あれは流石に異常ではないだろうか
俺は少し壬琴が心配になった



うれしい誤算と心配と









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