もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ









聞こえているのかいないのか分からない・・・あ、たぶん聞こえてなくてもジュンコ姉さんが言ってくれると思うからあんまり心配はしてないんだけど、とりあえず孫兵に遊んでくると伝えて、私は文次郎のにおいがする会計室の前にいた
土を足を振って落とし、私は障子に前足で隙間を空けると、鼻先でぐーっと開けた
まずはじめに来たにおいは墨のにおい
私が視線を向ければ、固まった会計委員たちが居た


「・・・・・・」


私はお構いなしに部屋にはいると、足で頑張って障子をしめた
とん、と障子同士がぶつかる音が小さく響き、その音にはっとしたように文次郎が立ち上がった


「なんでここにいるんだ、壬琴」
【遊びに来たー、邪魔はしないよ、見てるだけ!】
「だめだ、気が散るだろう、小屋に戻るんだ」
【やだ】


じぃーっと文次郎を睨み、文次郎も私を睨む
先に視線を逸らしたのは私で、井桁の制服の子の隣に座った
心なしか怖がられてる気がする
別に食べないよ?同族は食べません!正確には元同族だけど
私はその子の前に広げてある帳簿を覗き込んだ


【・・・これ読めるの?】
「・・・壬琴、お前字が読めるのか?」


だって元人間ですから!って言いたいけど、それは言っちゃ駄目だよね
私は頷いて答えた
人間だったら、文次郎の事手伝ってあげられるのに、残念
私はこれでも書道部だったから、他の人が書いてる行書だってよめるし、書けるのだ
実は書道、私の数少ない自慢だったんだ
で、この1年生のは読めないことはないんだけど、相当汚い象形文字でしょ、これ


「壬琴、お前、これを解読できるか?」
「先輩、狼にいっても仕方がないと思いますが」
【仕方なくないもん!私文次郎と喋れるんだもん!】


がるーっと紫色の子にうなる
文次郎はそんな私の頭をなでて、紫の子に俺が会話できるから気にするなと声をかけた
そして私にもう一度、で、どうなんだ、と問うた


【できるよ、まっかせて!】


人間だったらこぶしで胸を叩いていたことだろう
私だって文次郎の役に立ちたいんだからっ、お任せあれ!って感じかな?
それにしても、そろばんも書道もできるから、人間だったら私会計のこと手伝えるのになぁ・・・
普通に昔の人間だったときのこと覚えてるのに、体が違うからいろいろとできないことが多くてちょっともどかしい
もちろん、できることだって多くなってるけれど・・・
・・・・場によって人間になったり狼になったりできればいいのになぁ・・・・


「よし、壬琴、手伝えっ」
【はーいっ!】


とりあえず今は文次郎のお手伝い!




胸を張ってできること









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