もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

例えば私が死んでしまう定めだとしても






めでたく小平太と篤葉ちゃんが結ばれて
篤葉ちゃんの顔には前よりも幸せそうな笑顔が浮かぶようになった
小平太もなんだかんだと篤葉ちゃんへの気遣いが見え隠れしていて、あぁ、お互いがお互いに大切なんだなと思えて、見ているこっちが幸せになれるような、そんな二人


「あ、いさっくん!」
「伊作くん・・・・どうしたの?」


こちらに気がついた二人が、心配そうに声をかけてきた
そんなに僕は表情に出ていただろうか・・・?


「なんでもないよ」
「・・・そうか?私にはいさっくんが無理をしているように見えるんだけど・・・」
「私もそう見える・・・何かあったら言ってね、伊作くん」


僕を思ってくれる二人の温かさに、胸が温かくなった
二人は何かを思いついたのか、顔を見合わせて笑った
・・・なんだろう?


「いさっくん!こっちだ!」
「え、えぇっ!?」
「小平太、あんまり引っ張って罠に引っかからないように気をつけて」


ぐいっと小平太に手をとられた
後ろからゆっくり歩く篤葉ちゃんの声がしてその声音はとても楽しそうで、死の淵に立たされていた子だなんて思えない
篤葉ちゃんの声に、小平太は大丈夫だ!と答えながら、篤葉ちゃんの歩みに合わせて、少し早いくらいになっている
その気遣いに、なんだか僕はほほえましくなった






二人につれてこられたのは裏山にある花畑で
そこにはほかの6年生たちが居た


「え?あ、なんで・・・・」
「お、来たな」
事情の飲み込めない僕に、留さんは笑いながらいった


「日向ぼっこ、だとよ」
「私が言いだしっぺなんだ!」
「たまにはいいかと思って・・・ダメだった?」


文次郎が少しだけ不機嫌そうに、小平太はにこにこと笑いながら、篤葉ちゃんは少しだけすまなそうに笑って言った


「え、それはいいんだけど・・・突然だね」
「私がね、どうせ短い命なら、いろいろなものが見たいって、小平太にお願いしたの」


そしたら、みんな付き合ってくれるって
ふわり、と本当に嬉しそうに篤葉ちゃんが笑った
そんな篤葉ちゃんを見て小平太が、いさっくんずるい!と篤葉ちゃんに抱きついた


「篤葉は私のだからな!いさっくんにはあげないからな!」
「分かってるよ・・・」


すねたように僕にそういう小平太は#name3#ちゃんが大切なのがとても伝わってきて
篤葉ちゃんもまんざらじゃなく嬉しそうな顔をしていた
そんな二人を見て、仙蔵が小さく息を吐いた


「まったく・・・見せ付けてくれるな」
「へへっ、いいだろ仙ちゃん!」
「こ、小平太っ!・・・・・・ち、長次助けて・・・っ」


顔を真っ赤にした篤葉ちゃんが長次に助けを求めると、長次は何も言わずに篤葉ちゃんから小平太をひっぺがした
長次の無言の怒気で小平太は小さく縮こまる


「・・・・・・・」
「ご、ごめんって、長次・・・」


そんな二人を見ていた僕は笑い出して、釣られて留さんも笑って、文次郎と仙蔵は笑みを浮かべて
穏やかな時間
ふと篤葉ちゃんを見れば、彼女も嬉しいらしくて、その顔には優しい笑みが浮かんでいた




例えば私が
死んでしまう定めだとしても








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