もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ








走っていった小平太くんを見送って、私はふるりと首を振って、赤面しそうな自分に叱咤した
そして前を向くと、伊作くんを探して歩き始めた
しばらくしてから長次と留三郎くんと伊作くんを見つけて、私は声をかけた


「伊作くん」
「あ、篤葉ちゃん?」
「・・・それじゃ・・・」
「おう、またな」


長次は小平太くんに付き合うからと、校庭に向かった
私はまたね、と声をかけて手を振って見送った


「どうしたの?」
「あ、この薬を作れないかなって、家で材料の資金は用意してくれるらしいんだけど・・・」


私が差し出したのは家付きの医師による処方箋
私の命を、できるだけ長くするための薬
それは、私がただ苦しむ期間を長くするだけなのかもしれないけれど、それでも私はみんなと一緒に卒業を迎えたかった
こういうのを伊作くんに頼むのは、とてもつらいことだけれど
けれど、私の体は既に死ぬことが決められている体
ならば、薬を調合する技術、そして私と同じような人を見つけたときに、伊作くんならきっと助けようとするから、そのための経験をつめればいいと思う
それは、伊作くんにはいってないけれど・・・―――


伊作くんは、紙を見ながら、少し難しい顔をした
・・・大変なものなのだろうか
私は飲む人であって、作る人ではないから、紙を見ただけでは一概に判断できないのだけれど


「・・・篤葉ちゃん、この薬、相当強いから、副作用とか、あるかもしれないよ?」


いいの?と聞く伊作くんは、心配そうな顔をしていて
その台詞に、横に居た留三郎くんも難しそうな顔をした


「篤葉、お前、死のうとしてるわけじゃないよな?薬は強ければ毒にもなるってことはわかってるだろ?」
「死にたかったら薬を飲まなければすぐに死ねるよ、留三郎くん」


ふっと私は笑った
留三郎くんは、それもそうなんだけどな・・・となんだか後に続きそうな言葉をこぼして、けれど続く言葉はなかった
伊作くんは、仕方ないなぁと言うように笑って


「それだけ強い薬を飲まないと、もう駄目って事、だよね・・・」
「・・・そう、だね・・・」


なんだか場の雰囲気が暗くなったけれど、それを作った原因の私としては、どうしていいのかわからなかった




余命は、後わずか







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