もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ





side:小平太



「あ・・・」
「・・・篤葉・・・」


廊下の角を曲がると、目の前に篤葉が居た
篤葉はぱちぱちと目を瞬くと、にこりと笑った


「こんにちは、小平太くん」
「あ・・・あぁ、こんにちは、篤葉」


バレーボール持ってるから、体育委員?とにこにことその顔に笑みを浮かべながら言った
私はぎこちなく頷き、篤葉は・・・と続けた


「私は、ちょっと伊作くんに用事が・・・」


その言葉に、私は心がずきりと痛んだ
いさっくんに、私は勝てないのか?


「篤葉は・・・っ」
「?」
「・・・篤葉は、伊作が好きなのか?」


言ってから、後悔した
これでそうだって言われたら、私はどうしたらいいんだ?
二人を応援する?
その二人を見ながら私は過ごさないといけないのか?
・・・きっと無理だ、と思う
だって、幸せな二人をきっと壊そうとしてしまう
篤葉の答えを聞くのが怖かった



くすり、と笑う声がした
篤葉はくすくすと目尻に涙を浮かべて笑っていた


「伊作くんは、お兄ちゃんなの」
「兄?血がつながってないのに?」
「一年生の頃からずっと体調崩す度に看病してくれてたから」


その答えに、私は内心で安堵する
安心したら、体が動かしたくなって、私はいつものように笑った


「そうか!ならいいんだっ、私はバレーをして来る!」
「いってらっしゃい、怪我しないようにね」
「あぁっ、よーしっ、いけいけどんどんだーっ!」


そう言って、私は校庭に飛び出していった




安堵







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