いつか見た日々 「凛!」 僕が名前を呼ばれて振り返ると、三之助と左門が手を振っていた けれどその隣に作兵衛の姿がなくて 「三之助、左門、作兵衛はどうしたの?」 「それが作兵衛が迷子なんだ。凛はどこにいるか知らないか?」 そういう三之助は凄く自然だけれど、どうやら左門についてきたから本気で作兵衛が迷子だと思っているようで、思わず苦笑を零した 僕は間に入って、二人の手をとり、にこりと笑った 「一緒に探そう?」 「いいのか?」 うん、と返して、僕は二人と一緒に歩き出した 組が違うから、話していても知らない話題が出てきて 僕はは組だから、わかりやすいように授業をしてくれるけれど、ろ組はそうじゃなかったり きっと僕がろ組に入ったら、ついていけないんだろうなって思うことだって楽しそうに二人が話してくれるから、なんだかできないのにできるようなつもりになる それでも、できないって分かってるから、やろうとはしないけれど 「それでな!作兵衛が俺のこと見つけたと思ったらすぐ縄で縛ったんだ!いくらなんでも酷いだろ!?」 「うーん、でもほら、左門はすぐにこっちだーってどこか行っちゃうから・・・僕だっていなくなると心配なんだよ」 「そうそう、左門はすぐにどこか行くだろ」 「三之助も人の事いえないんだけどね・・・」 あはは、と困り顔で笑えば、三之助は凛までそんなこと言うのかよ、俺は方向音痴じゃないぞ、と少しすねた様に言った ごめんね、三之助、と笑って、ふと耳を澄ませると、作兵衛の声がした 僕は二人の手を少し引っ張り気味で、その方向に向かう 「作兵衛!」 「凛!って、左門!三之助!お前らどこ行ってたんだ!!」 慌てて作兵衛が寄って来て、左門と三之助を怒った 三之助はどこか吹く風で、むしろ作兵衛が迷子になったんだろ?と言い返した 左門はだってこっちのほうが近い気がしたんだ!と動くなとの言いつけを守る気などなさそうで 僕は作兵衛も大変だなーと思いながら、叱られる二人の後ろに立っていた すると、するりと何かが足に這い上がってきて 下を見れば、そこには孫兵の所のジュンコさんが居た 「ジュンコさん、遊びに来たの?孫兵は?」 「え、ジュンコが居るのか?さっき俺が二人を探してるときに、孫兵が探してたけど・・・」 手を伸ばして巻き付かせながらそう話しかけると、その様子に気がついた作兵衛がそう言ったけれど、残念ながら周りに孫兵は居なくて せっかくだから、ジュンコさんを届けながら孫兵と多分一緒に探しているだろう数馬と藤内をお茶に誘ってみんなで久々知先輩に貰ったお饅頭を食べようって話になった 迷子になる二人を、僕と作兵衛で手を引いて、三人を探しながら廊下を歩いていると、遠くで孫兵の声がした 近くまで行くと、丁度三人ともいるみたいで、僕が叫べば、三人はこちらを向いて、孫兵が僕の腕にいるジュンコさんを見つけると、ジュンコー!!と叫んで走ってきた 「ジュンコ!どこに行っていたんだっ」 「見つかってよかったね、孫兵」 「ありがとう、凛」 ジュンコーと頬擦りする孫兵をにこにこと笑いながら見て、一緒にジュンコさんを探していた数馬と藤内はそんな孫兵に苦笑いしていた 僕はそんな三人にも、良ければ一緒に貰ったお饅頭を食べないかと提案すれば、三人とも良いと言ってくれて 僕はジュンコさんを探してる途中で穴に落ちてしまった数馬と一緒に、一度お饅頭を取りに部屋に戻ることにした 「5人は先に食堂に行ってて、僕と数馬は一度部屋に戻ってから行くよ」 「わかった、早く来いよ・・・三之助と左門が逃げる前に!」 「俺は逃げてないぞ」 「俺もだっ!」 「とりあえず言ってるそばから道をそれようとしないでよ、三之助・・・」 「せっかく揃ったんだから、手を煩わせないでくれ、三之助、左門」 切実に言う作兵衛の言葉を後ろ背に、笑って返して、僕と数馬は5人と別れた そして、僕らが食堂に向かったとき、既にそこに僕らの知る"世界"はなかった いつか見た日々 戻 |