もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

穀雨






「・・・そろそろ桜が咲くなぁ」
「そうだねー」


温かくなってきたので廊下でタカ丸さんとほやーっと空を見上げた
春眠暁を覚えずって言うけど、本当にあったかくなると眠くなる


「んー・・・あったかくて眠くなるなぁ・・・」
「睦月くん、寝ちゃダメだよ、もう少ししたら授業なんだからー」
「分かってるー・・・」


ふわぁっと大きなあくびをして、また空を見た
視界の端にちらちらと映る、山の上の桜の桃色の気配
んー、と間延びした声と眠たい頭で俺はつぶやいた


「・・・今度の休み、花見に行く?」
「いいねぇ、それ、食堂のおばちゃんにお弁当作ってもらって?」
「俺がつくっても良いよー、自炊は得意ー」


俺がそういうと、タカ丸さんが睦月くんはすごいなぁ、何でもできるね、と目を輝かせていた
んー、ともう一度間延びをした返事をすると、ふわぁーっとあくびをしたとき、カーンとヘムヘムの鐘の音が鳴った


「あ、なった」
「次って睦月くん何の授業ー?」
「俺次実技だー・・・タカ丸さんは?」
「僕はねー、一年生と一緒に座学かなぁ」


わー、そうなんですか、分からないことがあったら夜にでも教えますよーと俺が言って立ち上がると、タカ丸さんもそれに習うように立ち上がった
そしてニコニコと笑うと、本当?うれしいなぁーっと言った
俺とタカ丸さんは一度部屋に戻って、各々必要なものを持つと、じゃあまたーといって分かれたのだった



穀雨

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