もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

お花見な季節






「お花見いこーよー」


その睦月の一言で、私たちは花見に行くことになった
睦月が気分よく前日から仕込みをしていたらしい
というのも、タカ丸さんが手伝ったからだそうで
5人だけだというのに、ずいぶんと手の込んだものを作っていそうだ


「どこまで見に行くんだ?」
「裏々々山」
「・・・遠くないか?」


睦月に言えば、即答されたが、裏々々山は結構遠い
体育委員の私が言うのだ、あれは行くだけでもそれなりに疲れる


「・・・だめなのか?あそこが一番今の時期だと綺麗に咲いてるんだ」


残念そうな顔をした睦月に、私たちはだめだと言えず、結局裏々々山まで行くことになった
まあ、一番大変だったのはタカ丸さんだろう
なんたってまだ入ってから2ヶ月程度なのだから
睦月も心なしか心配そうに気にしている


「タカ丸さん、平気?大丈夫?」
「う、うん・・・大丈夫だよー」


ふにゃりと笑うタカ丸さんだったが、どう見ても大丈夫そうじゃない
睦月は何か考えると、私に向き直った


「滝、お弁当持っていってもらってもいい?」
「構わないが・・・」
「ありがとうー!」


睦月は私に弁当を預けると、タカ丸さんを背負った
・・・タカ丸さんは睦月よりも大きかったはずなんだが・・・


「睦月くん、僕重いから・・・・!」
「へーきです。2年のときから津々浦々回ってた俺をなめるなーですよ」


大体、結構生物委員って体力あるんですから、主に毒虫探すのに走り回るから
とかわけのわからないことを言ってタカ丸さんを丸め込もうとしていた
・・・睦月、お前生物委員で毒虫が逃げたとき大抵歩いてなかったか・・・
という突っ込みは心の中にしまっておき、私たちは足を進めた



―――――



「うわぁ・・・・!すごいね!」
「これは美しいな・・・」


裏々々山の桜は見事なものだった
群生した桜が少々散り始め、けれどまだ満開に咲いている、まさに見ごろだった


「この時期ならこれくらいの山の高さのところが一番見ごろなんだ」
「睦月、ここはターコちゃんを掘っても平気?」
「んー・・・掘るのはいいけど体育委員が来たとき落ちるのはだめだからちゃんと埋めるんだよ、俺も埋める時は手伝うから」
「・・・わかった」


喜八郎は埋めるという条件に少々悩んだが、睦月が一緒に埋めてくれるのが嬉しいのか桜そっちのけで蛸壷を掘り始めた
そんな喜八郎を尻目に、私たちは茣蓙を引き、弁当を広げ始めた


「・・・睦月、相当がんばったな」
「わぁ、すごいねぇ」
「これを4人で食べきるのか?」


喜八郎は、あの様子だと食べなさそうだと思っての発言だったのだが、睦月はにこーっと笑って大丈夫、綾も食べるよ、と言った
いざ始まってみれば、睦月が呼ぶと喜八郎は寄って来て雛鳥のように睦月に口をあけていたし、旅をしている間は料理を睦月がやっていたらしく、おばちゃんに負けないほど美味しかった

ひらりと桜の花が風が吹くたびに吹かれ、ひらりと舞う

ざく、ざく、という喜八郎の土を掘る音を聞きながら、桜を見上げて、私たちはつかの間の休日を過ごした




花見の季節

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