もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

芒種






「綾ー?」


ひょこりと綾が居るであろう穴を覗き込めば、案の定鍬を持って嬉々と穴を掘る綾を見つけた
どうやら俺の声に気づかなかったらしい


「あーやー」


もう一度呼んでみる
が、余程今の・・・これはトシちゃんかな?を掘るのに夢中になってるみたい


「・・・せっかく綾と一緒に団子食べようと思ったのに」
「・・・睦月、今暇なの?」
「あ、綾、気がついたの」


きびすを返そうとすると、綾がひょこりと穴から顔を出した
穴を掘ってたし仕方ないけど、可愛い顔が土で汚れてる



「暇じゃなかったら呼ばないよー、俺が呼んだときに暇じゃないときあったっけ?」
「ううん、ない」
「だよ」


ひょいっと綾は穴から出てきたけれど、その体は土で汚れてた
俺はんー、とひとつうなって、ちょっと待ってて、と言ってすぐそこにある俺の部屋に戻った
そして濡らした手ぬぐいを持ってくると、綾の顔と手を拭いた


「俺の部屋の前で食べよう、終わったらまた掘るだろうし、そこなら汚れてもかまわないから」


俺後で掃除しておくし
綾はこくりと頷いたが、その後こてんと首を横に倒した



「志度は大変じゃない?」
「俺は綾と一緒にお茶できるから満足、終わったら綾がターコちゃんとかトシちゃん掘るの見るー」
「本当?」
「うん」


綾は目を輝かせて(きっと他の人から見たらあんまりかわらないんだろうけど)俺を見た
俺はにへらーっと笑顔を返して、早く食べて蛸壷掘ろう、と言って綾の手を取った





芒種

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