もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

おそろいの・・・


「うーん・・・・」
「・・・ねえ、いつまで悩んでる?」
「・・・決まるまで、かなぁ」


それじゃあいつまでもきっと決まらないよ?と茜は言った
せっかく町に出たから、茜に似合うものを買って上げようと思って、雑貨屋を見てたんだけど、赤いかんざしと橙のかんざしと、どちらも捨てがたくて、唸っていた
だから茜を待たせちゃって、凄く申し訳ないんだけど、せっかくの贈り物だからって、僕はずっと悩んでたんだ


「・・・もうっ!」


茜は一言そういうと、両方とも取ってお店の人にこれくださいって言ってしまった
・・・僕が買って上げようと思ってたんだけどなぁ・・・
茜は包んでもらったかんざしを持って僕のほうに歩いてきた
そうしてちょっと浮かない顔をしている僕ににこっと笑った


「あのね、雷蔵、私は別に雷蔵のこと嫌いじゃないの、むしろ大好きよ」
「僕も茜のことが好きだよ」
「うん、ありがとう」
「だから・・・」


僕が買ってあげたかったのに、と続けた
茜はちょっとだけ困った顔をしてえーっとね、と言って僕に向き直った


「私はね、雷蔵がくれるものだったら何でも嬉しいんだよ、でも今回はかんざしだったでしょ?」



茜はにこっと笑った
そうして片方、どちらが入っているかわからない包みを僕に渡した


「私と雷蔵で、一緒に選んだかんざし、女装のときに使ってくれる?」


私も、私と雷蔵で選んだかんざしを町に出るときに使うから、と茜は笑って言った
僕は驚いて、けれど凄くその心遣いが嬉しくて、笑って頷いた
包みを開けてみれば、それは赤いかんざしだった
茜の手には橙のかんざし
つくりは一緒で、色は違う、そのかんざしは、おそろいだね、と笑う茜と同じだということだけで、とても輝いて見えた
あ、その後茜の分のかんざしの代金は渡しました、だからお互いに送ったってことになった

その後、僕の引き出しには、茜から貰ったかんざしが大切にしまわれて、女装の授業でよく使われることになる




おそろいの・・・