うそつきの恋 「茜は可愛いな」 「・・・お世辞言ったって何も出ないわよ」 「本当だって」 たびたび付きまとってくる迷惑なやつ それが私がこいつ・・・鉢屋三郎に対する認識だ いつも飄々としててどこかつかめなくて 私の好きな・・・雷蔵の顔を借りてる まあ、雷蔵は私のことただの友達だって思ってるし、私も告白なんてする気はさらさらない 墓場まで持っていくわよ、忍の三禁を破るだなんて、恥だもの 私はきっと鉢屋をにらみつけた 「いい加減にしてよ、いつもいつも・・・なにがしたいのよ」 「気づかないのもどうかと思うんだけどな、私がこんなに分かりやすくいってるっていうのに」 「なにがよ」 ・・・知ってるわよ、鉢屋の目に確かに嘘らしい影はないってこと だから私は知らないフリをしてるのに、鉢屋は止めようとしてくれない 「なぁ、茜、本当は分かってるんだろ?」 「・・・・」 「沈黙は肯定だな」 「・・・だったら、なに」 これでも私は潮江先輩に並ぶくらい忍・・・私の場合くの一だけど、その規則を守るくのたま確かに下級生のころは恋に恋したわよ・・・ でもね、恋は身を滅ぼす その様を、私はこの5年間、他のくのたまの子が泣いていくのを間近で見てきた 「私を好きになれ、茜、雷蔵じゃなくて、私を」 「・・・私は、誰かを好きになるつもりはないわ。雷蔵だって、ただの友達よ・・・鉢屋、あなたもね」 「嘘だな」 「本当よ」 鉢屋の顔を睨んだまま、私は言った 「私がこの5年間で知ったことはくの一になるための経験や理論だけじゃないわ。忍がそうであるように、私たちくの一だって、恋はご法度よ。なぜなら色に現を抜かせば己の役割を忘れてしまうから。それを、私は間近で見てきたわ」 「それは私も一緒さ、5年間忍たまをやっているんだからな」 「えぇ、そうね、私たちは二人とも5年生だもの。・・・私は立派なくの一になるためにこの学園に来たわ。だから恋に現を抜かしてくの一になれないようじゃ、私がここに来た意味がない。5年間すべてが無駄になるのよ」 私はそんなことしたくないわ そういって、私はきびすを返そうとした パシッ 「・・・なに?まだ何かあるの」 「あぁ、あるさ」 鉢屋は私の腕を取って私を止めた 仕方がないから私はまた鉢屋に向き直る その目がやけに真剣で、私は少しだけ居心地が悪くなった 「茜、私がそれを分かっていないでお前に付きまとうと思うか」 「・・・・・・・」 「すべて承知の上だよ、そうじゃなかったら、ここまでしつこくはやらないさ」 つかまれたままだった腕がぐいっと引っ張られた 私は体制を崩して、鉢屋の方へ倒れこむ 鉢屋は私をそのまま抱きしめると、耳元で私に囁いた 茜がくの一になりたいのなんて知ってる でも私に、"守りたい者"を作らせてくれないか そのとき私は思った 私が好きだったのは・・・雷蔵じゃなくて・・・――― うそつきの恋 戻 |