もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

アコガレノート
ある少女の日記帳

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睦月三日
今日は彼と話すことが出来た
いつも影からこっそり見るだけだったから、とても嬉しい
けれどこの幸せも、後二ヶ月で終わってしまう
それがとても、悲しい


睦月十五日
彼が後輩達と笑っていた
自分の教室に向かう途中だったけれど、その笑顔になんだか私も嬉しくなった
不意に目が合って、私に笑みをくれた
とても嬉しかった


如月一日
身体の調子があまりよくない
一日布団から出る事が出来なかったけれど、友人が心配して何度か見に来てくれた
彼は今日も委員会だろうか?
きっと優しい顔で後輩の面倒を見ているのだろう
明日になればきっと私の体調も戻ると思うから、またひと目見れたらいいな


如月二十日
今日は彼が私に話しかけてくれた
普段よっぽどの事がなければ話しかけてこないというのに、私にわざわざ話しかけてくれて、そしてその表情はとても優しい
彼に恋をできたことが、とても幸せ


弥生九日
きっと私は彼を忘れない
初めて恋をした彼を、私は一生忘れることは無いと思う
この恋が実ることは無いけれど、それでも私は彼をずっと胸の内で慕うのでしょう


弥生晦日
愛しい日々を、ありがとう
私はとても幸せでした
彼と私を育ててくれたこの場所に、幸多からん事を


―――――


その日、一人の少女が学園を去った
けれど誰一人として、そのことには気づかず
あぁ、一人だけ
学園長だけは、彼女がこの学園を去ったことを知っていた
なぜなら彼女がこの学園を去る理由を突きつけたのは学園長だったのだから


「あれ、茜ってどこ行ったの?」
「町にでも行ってるんじゃないか?」
「え、新学期早々?うーん・・・足りない薬の材料頼むんだったかな」
「どーせ茜のことだから、気がついてるんじゃないか?そこら辺気づくの得意だっただろ」
「えー、それは留さんにだけだって」


彼らは彼女が居なくなったことを知らない
だれも、だれも知らない

学園のくの一で一番出来の良い生徒を此処へ
さすれば、学園との同盟を今後とも続けよう


くしゃり、と学園長の手の中で握りつぶされたその文
学園から居なくなった彼女がどうなったのか、それを知る術をだれも持っては居なかった




彼女の日記帳に赤裸々につづられた恋心
それが彼に届けられるまで、彼は彼女の気持ちを知ることはなかった
―――知ったところで、どうにもならないのだけれど



"アコガレ"ノート




日記帳で何かーと思ったんですが、思いの他暗く
というか、短編の内容の暗さ具合が半端無いですね!
まあ長編・中編は全部ハッピーエンドで終わるので、バッドエンドは全部短編になることは仕方ないんですが