毒を愛する人、毒を好む人 私は毒を持つ人が好き 物理的な毒じゃなくて、心の毒 そう思うのはきっと、私が狂ってるから 狂気は凶器にしかならないって、自分で知ってるのよ? 「空峰」 「・・・なに?伊賀崎」 「キミはどうして、毒を欲しがるんだ?」 普段縁も無い男子生徒の一人、伊賀崎孫兵 蛇を常に傍らに置き、毒をもつ生物をこよなく愛す、変な人 ある意味で、私に最も近い人 そんな彼からの質問は、一番簡単で一番難しいものだった 「私が毒を欲する理由?」 「だってキミは僕みたいに人間が嫌いだとかそういう理由じゃないだろう?」 人間にそれを求めている事が心底分からないといったように、顔をゆがめる伊賀崎 私はそれを見てクスリと笑った 「だって、心の毒って、それは"本能"じゃない」 「本能?」 「・・・い組のクセに頭悪いのね」 ふん、と鼻で笑うように私はそういった それに少々むっとしたのか、顔に憤りの表情を乗せる伊賀崎 私は彼が何かを言う前に冷たく笑った 「私はね、人間のキレイなところが嫌いなの。ううん、人間に限らず動物すべてのね。キレイなものなんて何一つ無い、世界にキレイなものなんて無いわ。だからこそキレイでありたいと願う。だから私はそんな化けの皮をはがしてやりたいの」 くすくすと笑う私はきっととても冷たい表情をしていると知っている けれど、それだって理由がちゃんとあるのだ まあ、そんなの教えてやら無いけれど 彼は呆気にとられたようにぽかんとした 「なぁに?伊賀崎の愛して止まない虫達のように脳みそがちっちゃくなって理解できないの?」 「・・・そうじゃない」 「じゃ、怖くなったの?毒にも動じない貴方が?それこそ笑っちゃうわ」 今にも大声を出して笑ってしまいそう 人間なんて一番キタナイ だってつくろってつくろって、必死でキレイになろうとする あぁ、なんて醜い世界! 「空峰があまりにも僕に似てたから、驚いただけだ」 「伊賀崎、貴方私に喧嘩売ってる?私はキレイなものが大嫌いなの、貴方だって例外じゃないわ」 「それでも、僕が空峰に一番近い自信はある」 なにを根拠にとでも言いたくなるが、すがすがしいほどきっぱりとそう彼は言った その言葉に呆気に取られたのは私のほうだ 私のなにを分かるって言うの 普段まともに話さないようなやつに、私の・・・ 「・・・貴方、嫌い」 「僕は、空峰の事、嫌いじゃない」 私は、伊賀崎の言葉を聴かなかったフリをして彼に背を向けた 毒を愛する人、毒を好む人 戻 |