もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

初めてのキスの味


こんこん、と戸を叩く音に、扉を開けるとひょこりと顔を出したのは幼馴染の茜
やほ、と手を上げる様はいつもと変わらないはずなのに、どこかそわそわとして落ち着かない・・・気がした


「どしたの?」
「んー・・・」


煮え切らない返事
けれど後ろ手に隠された紙袋の存在に気が付き、おれは苦い顔をした
それが茜にも伝わったのか、茜が苦笑する


「ごめんね、いらないって分かってるし、受け取らないようにがんばってるんだけど・・・」
「あー・・・いや、茜が悪くないって分かってるから・・・」


申し訳なさそうにそういった茜に、おれは諦めたように返した
家が隣同士で、幼い頃から一緒に育ったおれ達は、兄弟のように仲が良くて
おれは小さい頃からカッコいいと言われて来て、その容姿が人よりも優れた物だって言うのは分かっていた
別に自惚れでもなんでもなくて、本当に自覚しなくちゃ、茜がある意味で危なかったから
茜はよく見ると可愛らしいけれど、でも普通の範疇
おれと一緒にいると、他の女の子達からいらぬ嫉妬を受けるんだって、校舎裏で震えていた当時小学校5年生だった茜を見つけてから学んだ
それから茜とは学校では話さないようにして、どうしても話さないといけないときは幼馴染で、他意はないのだということを周りにアピールしながら話すようになった

それはおれにとって凄く苦痛で、でも茜を守るためだからとずっと我慢して
高校に上がってもおれ達は一緒だった
思春期になっても、おれ達は相変わらず学校ではほぼ他人、でもプライベートでは仲のいい幼馴染という関係
・・・ただ、幼馴染であることは周りにしれていて、その関係でおれにチョコを渡してと仲介を頼む女の子が多くて
根が優しい茜は、おれがチョコを貰うのがいやだということを知っていても、断りきれずに持ち帰ってくる
その度に、ごめんね、と謝るのだ

おれが欲しいのは一つだけで、それ以外の気持ちはみんな要らないのに
そう思いながら、茜がもって帰ってきたチョコを受け取って
渡すときだってずっとしょんぼりとしたままの茜
そんな顔をさせたかった訳じゃないんだ、でも、こたえられない気持ちを貰っても、おれはどうしていいのか分からないから

紙袋を持っていた手をそのまま引いて
腕の中に茜を閉じ込める


「か、勘ちゃん・・・?どうしたの・・・?」
「いつもごめん、迷惑かけて」
「・・・ううん、私こそ・・・ごめんね」


きゅっと小さく握られる服の端
いつの間にこんなに茜は小さくなったんだろう
すっぽりと腕の中に納まる茜に、おれは心の片隅でそう呟いた
おれが迷惑をかけてもずっと、勘ちゃんのためだから、と笑って許してくれた茜

ねえ、茜
茜は、もしおれが茜が好きだって言っても、笑ってくれる?
今もしも、ここで茜にキスしても、笑って許してくれる?


「茜」
「勘ちゃ・・・っんぅ・・・」


茜の名前を呼んで、上を向いた君の唇を奪って
唇を離してすぐに、優しく笑う


「好きだよ、茜」


顔を真っ赤にした茜との始めてのキスは、チョコの味がした





初めてのキスの味




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