もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

君の人形を僕に頂戴


廊下で日に当たりながら、私は雷蔵の背に凭れていた
雷蔵は図書室から借りてきた本を読んでいる
手に針を持ち、破いてしまった服を縫う
忍という職業柄、どこかに引っ掛けたり、切ってしまったりなんてよくあること
でも、そのたびに新しいものを買うなんてそんなことは出来ない
だから、自分で自分で直す人が殆どなのだけれど

でも、何人かは居るのだ
「不器用で出来ません」って言う人が
そういう人は、大抵縫い物が得意な人に頼む
それが雷蔵の場合、私だった、ってことなのだけれど

最後の玉止めをして、ぷちん、と歯で糸を切る
ほかに縫い忘れがないか、全体を見てから、後ろに居る雷蔵に声をかけた


「らーいぞ、終わったよ」
「ん、ホント?ありがとう、茜」
「どういたしまして」


畳んで、私は雷蔵が取れる位置に服を置いた
雷蔵は本が面白いのか、本から視線を話さない
・・・恋人なのに、本に負けるってなんだか複雑
それでも雷蔵が本が好きだってことはしってるから、私も何も言わない
せっかくだから、と私は持っていた針子道具の中から、はぎれを取り出した
チクチクと縫い進めて、雷蔵が本を読み終わる頃には、既にほぼ形の出来ていたそれ


「っあ、茜、ごめんね、ほったらかして」
「ん、いいよ、だって雷蔵が本大好きなのは知ってるもん。それも含めて雷蔵だから」


慌ててそういった雷蔵に、私はなんでもないように返す
実際、本が好きな図書委員だってことも含めて雷蔵だもんね
雷蔵は体制を変えて私を抱きこむように座る肩口から私の手元を覗き込んで、雷蔵はあ、と声を上げた


「それ、僕?」
「うん、そうだよ、よく分かったね」


くすくす笑いながら私も手元に視線を戻せば、小さなお人形
そのままだけれど、名づけて雷蔵人形だ
ふわふわとした髪は糸を裂いて、出来るだけ雷蔵のもふもふとした感覚に近いようにしている


「かわいいね、それに上手いや、さすが茜」
「ふふっ、いる?コレ」
「僕が自分で持ってても仕方ないよ、だから茜が持ってて?」


その代わり、と雷蔵が続けて
その言葉に、私はちょっとだけ照れたのは、きっと雷蔵も気が付いていたんだろう
でも、雷蔵の耳もちょっとだけ赤かったから、お相子だよね?




君の人形を僕に頂戴





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