偽りすらも丸ごと愛して ずっと怖かった "僕"という存在が"私"であることを、嫌悪するんじゃないかって "僕"であることを選んだのは私だけれど、いつの間にかこの暖かい場所にいるのが"私"のような気がして 「ねー、茜くんってさ」 「ん?なんか僕についてる?」 「うーん・・・あのさ、茜くんって茜ちゃん、だよね?」 何で男の子の格好してるのかなーって・・・といつものふにゃんとした顔で、タカ丸さんはそういった その言葉に、衝撃を受けたのは私だけじゃない 場所が食堂だったので、そこにいた忍たま全員に聞かれていたのだ 私はばれるわけにはいかないと重いながら、けらけらと笑いをこぼす 「やだなー、タカ丸さん、僕は"忍たま"だよ?女の子はくのたまだし、僕が女な分けないでしょ?」 そう言えば、そうなのかなー、でも髪が・・・とぶつぶつ言っている 髪質で分かるとか、さすが髪結いというべきなのか 本来ならば褒めるべきところなのだが、素直に褒められないのが今の状況だ しかし、いつもの僕ならば、すごいことはきちんと褒めてあげるから、それが無いというのはそれもそれで不自然だろう 「んー、でも僕の髪が女の子みたいにちゃんと手入れされてるってことなのかな、それだったらありがとう?」 「茜くんの髪はホント綺麗だよ!仙蔵くんに負けないくらいに綺麗!ストレートじゃないのがホント勿体無いよー」 へにゃんと笑顔を見せるタカ丸さんに、私も笑顔を見せる これで、どうにかごまかせただろうか? あぁ、こんなにも共に過ごした人達の目が怖いだなんて "私"はいつから、こんなに臆病になったのだろう "私"が"僕"になると、そう誓った思いは、ずっと続くのだ 絶対に、ここでばれる訳には、いかない 僕はきゅっと小さく拳を握った その日の夜 久々に酒盛りをしようと、小平太が言い出したので、仕方ないなとみんなで集まることになった なんだかんだいって、私も含めてみんなお酒が好きなのだ 酒に呑まれるほうではないし、呑まれないように調節をする練習にもなるから、一石二鳥というところだろうか 「久々だなぁ!」 「そうだねー、前に飲んだのって、確か二月前くらい?」 「かもしれんな」 にこにこと笑う小平太と伊作は害がなさそうなのに、仙蔵の笑みだけはなんだか裏がありそうだとおもうのは今までの経験かそれともただの疑心暗鬼か それでも、あの昼間の出来事のあった日に、わざわざ酒盛りなんてするだろうか 小平太がやりたいと騒ぐにしても、だ ・・・あぁ、ダメだ、6年共に付き合ってきたこの友人達を疑うだなんて 私はぐいっと猪口の酒を煽った 「今日は言い呑みっぷりだな、茜!」 「潰れんなよ茜、酒におぼれる無かれだ」 「文次郎、硬い!」 こんな席でも三禁を出してくる文次郎に、小平太がぎゃいぎゃい騒いだ そんなに騒ぐと先生が来るだろう、と私が思えば、とす、と二人の間に刺さる縄標 縄の先には、長次 「・・・あまり騒ぐと、教員が来る」 ぼそり、とそういった長次に、小平太がわー、ごめんな長次!と頭を掻いた 小平太はいそいそと私の隣に座ると、きゅぽんと酒を開けた 「私のお気に入りを持ってきたんだ、茜、好きだっただろう?」 「ん、小平太のお気に入りか、呑みやすくて好きだ」 ついでくれるという小平太に、ありがとうと言って猪口を差し出す そうしてしばらく呑んでいれば、唐突に仙蔵が私に話しかけた 「して、茜、昼間の話だが」 「・・・仙蔵、僕を疑うの?」 「なに、やはり違和感がぬぐえなくてな」 身長が六年生で一番低く、なおかつ成長の始まりも終わりも早かったことや、一度も今まで一緒に風呂に入ったことが無い、肩幅が狭い、など 「上げれば切りが無い」 「僕は男で忍たま所属だ、それ以上もそれ以下もない」 イライラとして、つい冷たい声でそう言ってしまった私は、すっと立ち上がると、ごめんと一言謝って部屋を後にした 分かってるんだ、男と女の身体が違うことなんて 4年ごろから胸が膨らんで、サラシで押し付けるのだって大変になった 学園長先生の計らいで一人部屋だったから、寝起きは苦にはならなかったけれど、筋肉の付かない体に、力では勝てないからとスピードに重きを置いた かたり、と小さな音を立てて屋根に足をつける そしてうずくまって小さく膝を抱える 本来なら、双子の兄上が入るはずだった忍の道で、兄上が仲良くなったであろう彼らと友になり、6年間を共に過ごした 突然の死に、ショックを受けたのも束の間、兄上のおかげで生きていられた"私"は、兄がいなければただの君の悪い子ども だから、死んだのは兄上じゃなくて、"私" そうすれば全部上手くいくと思った 一生を兄上として過ごせば、父上も母上も笑ってくれる、"私"がいなければ、幸せなのだから ・・・でも ごめんなさい、私は兄上にはなれませんでした だって兄であるはずの僕は"私"であることを望んでしまったから うずくまって、膝を抱えて顔を埋めて 頬を伝う何かになんて気がつかない振り 私は泣いたらダメだから 「・・・茜」 僕を呼ぶ声がする 今はだめだ、だって今、私は"僕"になりきれないから 「こないで、長次」 大丈夫、明日からはちゃんと"僕"だから、"私"なんて表に出さないから 今だけはそっとしておいて欲しいのだと、言外にそう含ませる けれど長次の気配は遠ざかることはなくて 「・・・しっていた、茜は女だと」 「っ・・・・・・」 「だが、それには理由があるのだとも、思っていた」 消して大きくないその言葉なのに、下の喧騒にかき消されていなくて、私はこの二人だけしかいない空間が、世界から切り離されてしまったような錯覚を覚えた 「・・・理由は、聞かない。だが、女でも、男でも、茜は、茜だ」 そう言って、長次は私の頭を、下級生でも撫でるかのように一つ撫でると、下に戻ろうとした 私は、その長次の袖をくいっと小さく引いて、引き止める 「・・・ずっと怖かった。私は要らない子だったから、兄上がいなくなれば、兄の願い故のお情けで生かされていた私は・・・ただの荷物にしか、ならない、から・・・私が兄上に、なるって」 あぁ、言ってしまった 怖くて、震える体 いつも兄上の後ろで、兄上に守られて生きてきた私は、とても臆病で 兄上のように誰からも頼れる人でありたいと必死だったけれど、根本なんて変われなかった 「・・・そうか、がんばったな茜・・・」 そういって震える体をふわりと抱きしめてくれた長次 腕の中は暖かくて、私が私であることを許されたような気になった そのまま眠ってしまった私は、長次の顔が、怖い笑顔などではなくて、暖かな優しい笑顔であったことに、気がつくことは無かった 偽りすらも丸ごと愛して ――――― いやー、なんかホント、すいません、長次相手なのになんだか長次じゃなくて・・・ というかバレネタでーと言われた割にバレネタが中途半端すぎて泣けてきました こういう感じで宜しかったのでしょうかー・・・ものすごく、すいません、うわぁぁ しかしバレネタらしいバレネタ!というものは多分始めて書いたので、良い経験になりました リクエストありがとうございました アリサ様のみお持ち帰り可です 戻 |