わざと遠くにいた私の隣に、いつのまにか君がいて 父様に捨てられた母様を、幼い頃から見ていた私は 男になんて頼らずに一人で生きていくと決めて、無理を言って忍術学園で戦場で駆けるくの一となるべく己を律してきたのに 気がつけば、するりと違和感なく隣に居て いつの間にか、私も絆されて 恋だの愛だの、くだらないと切り捨てていたのに 「何で、私は子どもまで居るのかな・・・」 ぽつん、と一言 腕の中には幼子 "彼"に似て、睫は長く、きっと将来は美しい子に育つんだろう 「ただいま、茜」 御簾を潜って顔を出したのは、恋なんてと思っていた私を絆して、私を"久々知"にした張本人 私は彼の、兵助の方を向いておかえりなさいと声をかける 「あぁ、寝てるんだな」 「えぇ」 いつも無表情に近いその顔に、笑みが浮かぶ それを見ていて、生んでよかったと思えるようになったのは、きっと兵助のおかげ 以前の私なら、きっと子どもなんてくの一である私にとって邪魔なだけで、愛情なんて注いであげられないだろうと思っていただろう 母様が、捨てられても父様を愛していると、そう言っていた意味、今ならば分かる気がするの 「茜」 「ん、どうしたの?」 「愛してる、俺と結婚してくれて、ありがとう」 そうやって穏やかな顔で、綺麗に、私に愛を囁いてくれる貴方だから 私はくの一じゃなくて、ただの女になれたのかも知れない 「・・・うん、私も、愛してる、兵助」 啄ばむように唇を重ねて この腕の中の子が起きてしまわないかと頭の片隅で思いながらも、それでもその行為を嬉しいと、愛しいと思える 結局私が、戦場で活躍することは無かったけれど、それでも私はいまの生活に満足している だって、私は道具ではなく、愛するという感情を持つ人間になれたのだから 「兵助、ありがとう」 「いつも茜はそればっかりだな」 ふわりと苦笑する兵助 でも、私は感謝しても仕切れないの 私が浴びることの無くなった血の臭いを、その身に纏って 日夜苦悩する貴方を支えさせてくれる事 私はそのうちきっと、貴方の、兵助の枷になるということを、頭の良い貴方が分からないはず無かったのに 「俺は茜に会えてよかったと思うし、こうして茜が久々知茜としていてくれることが凄く嬉しい。それに、茜は俺の事、ちゃんと分かってくれるだろ」 「だって、私もくの一だから・・・」 「それだけで、十分だ」 そうやって笑う貴方がいるのなら、私はこの小さな命を守りきる 貴方が愛してくれた私を、この子を、貴方を悲しませないために、守りきるよ だから、 「置いて逝かないでね、兵助」 「もちろん、二人を置いて逝くなんて、絶対にしない」 そうして笑えば、きゃらきゃらと笑う声が腕の中から聞こえて 起きて、笑う子の様子に、私たちはまた顔を見合わせて幸せに微笑んだ わざと遠くにいた私の隣に、いつのまにか君がいて ――――― 結婚後という設定に悩んだ末、子どもが出来ましたなんかすいません、とりあえず子どもに名前はつけなかったんですが・・・むしろ絹子とか名前つけたほうが良かったでしょうか?(笑) イメージとしてはほのぼのを目指してみましたが、なんだか熟年夫婦っぽく・・・! でも結婚というものをしたお話って書いてませんでしたので、良い経験になりました リクエストありがとうございました! カオリ様のみお持ち帰り可です 【title by】 確かに恋だった 様 戻 |