もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

今年もみんなが幸せでありますように


静かに家族を起こさないようにして、私は家を出る
かちゃりと鍵を閉めて、まだ暗い闇の中へ私は歩き出した




待ち合わせ場所の公園に向かえば、すでに人影が見えた
私は早足、というよりは、駆け足で人影に近づいた


「みんなっ!あけましておめでとう!」
「あけましておめでとう、茜」
「あけましておめでとー、茜、これないと思ってた」
「あけましておめでとう、茜、意外と早かったな」



にこりと笑う雷蔵と勘ちゃん、そして三郎がたたずんでいた
そこには兵助とハチが居なかった


「兵助は・・・寝坊?」
「あー・・・うん」
「ハチが呼びにいったんだ」


私が聞けば、雷蔵が答えにくそうに苦笑して頷いて、三郎が説明を入れた
低血圧の兵助は、室町から変わらない
それでも学校に遅刻しないのはさすが優等生というか、い組気質というのかな?
けれど私たち、気を許している人達とだと、その律した心も緩んで、今日みたいに寝坊するという
それでハチがよく呼びにいくんだ
私はそっかーと答えて、勘ちゃんの手を握った


「わ、どうしたの?」
「ん、寒いからー」


勘ちゃんの手はあったかくて、私もいまはそんなに冷たくないけれど、きっと兵助を待っているうちに冷たくなってしまうから
そんな私の気持ちを分かっているのか、勘ちゃんはしょうがないなーといって、私の手を握り返してくれた


「ありがと」
「まったく、見せ付けてくれるな」



私が勘ちゃんにお礼を言えば、三郎が横からにやにやとした顔をしながら茶々を入れてきたので、私はいいでしょーっと言って勘ちゃんの手をぎゅっと握った
室町の時代は、お互いがお互いに忍だったから、弱みになることが分かっていた
だから、好きあっていたけれど、その恋は卒業と同時に終った
でも、平成のこの平和の世なら、忍とか、そんなもの関係なくて


「だって、こうしていられるのが本当に嬉しいから」
「私も嬉しいよ、また会えて、好きでいてくれて、本当に」
「あー、はいはい、お熱いことで」


そうして三郎と雷蔵が苦笑している中、二人分の足音が聞こえてきた
きっとハチと兵助だろうなと思いながら、公園の入り口に目をやる


「送れてごめんな!あ、茜、あけましておめでとう!」
「おはよ・・・あけましておめでと・・・ふぁ・・・」


元気の良いハチと、眠そうにあくびをもらす兵助に、私は苦笑しながらもあけましておめでとうと返す
そうして全員揃ったから、と近くにある神社に向かう
兵助は一人で歩かせたらその場で倒れて寝そうだからと、ハチが手を引いたままだ






神社に着けば、そこには人が多く集まっていた
既に賽銭の列は動き始めているけれど、それでも長いその列に、私たちも並ぶ
寒いねと言いながら、なにをおねがいするか、とか今年やりたいことを話す


「茜は、なにおねがいする?」
「ん・・・みんなとこれからも一緒にいられますようにかな?」


勘ちゃんに聞かれて、私が答えれば、5人は私を見て苦笑した


「そんなの当たり前だろ?」
「僕はまだみんなと離れる気は無いもの」
「オレもまだまだ一緒にいるぜ」
「俺も。ずっとみんなで一緒だろ?」
「心配しなくても、みんな茜を含めてここから離れるつもりなんて無いよ」


5人がそういえば、私は一つぱちりと瞬きをして、笑みを浮かべた


「・・・うん、そうだね!」


だからお願い事は・・・






今年もみんなが幸せでありますように