もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

貴方の代わりに覚えています


とくり、とくりと心臓の音がなる
その一定の時を刻む音に、安心する私が居る
刻む音に耳を傾けて、過ぎる時を想う


「ねー、勘ちゃん」
「んー?」


名前を呼べば答える声
それがただ嬉しいと思うのは、私だけ


「愛してるよ、勘ちゃん」
「・・・なんだか唐突だね、茜」
「言いたくなっただけだもん」


くすくすと笑う勘ちゃん
その笑みを私に向けてくれたのも、とても久しぶり


「何か不安なの?」
「ん・・・勘ちゃんがいてくれれば不安じゃないよ」
「そっか・・・大丈夫、大好きだよ、茜」


愛を囁く言葉にうんと返して
ただそのあたたかな身体にすがりつく
きっと勘ちゃんは分かっていないけれど
私がどうして貴方にこんなにべったりなのか
どうして唐突に好きって、愛してるって言うのか


「ねー、勘ちゃん」
「うん?」
「お願いだから、置いて逝かないでね、隣にいてね」


勘ちゃんのきょとんとした顔





「久々知くん・・・?」
「ごめん、茜さん・・・ごめん・・・っ」


謝る、彼の親友
忍が定め、故にしかたのないこと


「あ・・・勘・・・ちゃ・・・ん・・・」


冷たい彼の身体
ただ、抱きしめる私
愛する人に、先立たれて
三禁だからといわれても、それでも愛をくれて、愛を返して
忍らしい、夫婦になろうと
任務が終わったら、親に報告して、ささやかに、小さくでも学園時代の共を呼んでお祝いしようって
約束したのに


「あ・・・・・あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」




記憶のある私
記憶のない勘ちゃん

記憶がなくてもいいんです
貴方が私を愛してくれるなら
私の隣に居てくれるなら
私よりも生きてくれるのなら

辛い記憶は思い出さなくていいよ
私がその分覚えてるから
だから貴方はただ


「今、凄く幸せー・・・」
「ん、おれも幸せ、だって茜といれるもん」
「ふふ、私も、勘ちゃんと居られるからだもん」


幸せで居てくれればいいんです
それが私のそばなら、私も幸せだから




貴方の代わりに覚えています