もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

03.本気で言ってるなら殴る。冗談のつもりなら蹴る。








「本気でいってる?冗談ならタチ悪いから蹴るだけで済ませてあげるけど」
「・・・本気です」
「ちょっと一発本気殴らせて・・・!」


現在の状況
私、仁王立ち
ハチ、正座


「で、殴られたくなければ何かいってみて」
「・・・返す言葉もありません・・・」


しゅん、と肩を落とすハチは、まるで尻尾をたらして落ち込んだ犬のよう
いつもなら許す私だけど、今回ばかりはそうもいかない
今のところはまだ殴らないけど!それでもやっぱり腹が立つので怒鳴った言い方になる


「どうして補習になってるのっ?!」
「だ、だってな・・・」
「だってじゃないでしょっ」


ハチが女装の授業を苦手としてるのは知ってる
だからせめて補習にならないようにって、逢引する約束とかそういうの全部なくして、化粧の仕方教えてあげたり仕草とか教えてあげたのに
なのに


「全部出来てないって、どういうことなのよー!」
「・・・ごめん」
「折角ハチが補習にならないようにって教えたのに・・・!これじゃがんばった私が馬鹿みたいじゃない・・・っ」


いってる途中でなんだか悲しくなってきて、嗚咽が混ざった
そんな私を見て、ハチは立ち上がって私を引き寄せてくれた
筋肉の付いた腕、硬い胸板
女の自分とはつくづく違うのだと分かる
それでも、やっぱり悔しいよ


「ごめん、ごめんな」
「謝んないでよ・・・ハチだってがんばってたの知ってるから・・・私の教え方が悪かったんでしょ?今度の補習はちゃんと合格できるようにまた教えるから・・・」
「ちげーよ、茜のせいじゃねぇ、俺のせいだ」


そういってぎゅっと強くなる腕の力
密着したことで聞こえる、とくとくとなるハチの心臓の音
なんだか、速度が速かった


「お前と居られんのが嬉しくてさ、あんまり集中できなかったんだ」
「・・・っばか」
「へへっ、ごめんな、また頼んでもいいか?」
「居て欲しいならいつでも行くから、だからそのための時間を、増やすためにがんばってよね・・・!」


私がそういうと、ハチは嬉しそうに笑った
でもやっぱりアレだけ教えたのが全部無駄って事だったので軽く殴らせてもらいました
ホント、軽くだけどね




本気で言ってるなら殴る。冗談のつもりなら蹴る




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【title by】青い如雨露