もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

ただ愛してくれたらそれでよかったのに


「好きな人が出来たんだ」


だから、別れてくれ
そう言ってあなたは・・・ハチは頭を下げた
私は目を見開いて、けれど諦めたようにふっと笑った
だって、あなたは新しいお手伝いさんをずっと目で追っていたもの
私がいるのに、どうしてって思ったよ
でもね・・・


「幸せに、してあげてね」


ハチは彼女をずっと気にしてて、彼女もハチを好いてたみたいで
両想いの二人の間に、私のはいる隙間は少しもなかったの
だからね、覚悟は出来てたの
本当よ

でもね、スキップでもしそうなハチを笑って送り出して、姿が見えなくなった後、泣き崩れたのは
きっと、幻よ・・・


ハチ、確かにあなたは私を愛してくれた
私も幸せだった
いまでも、大好き、愛してるの
だから、ハチ、あなたが心置きなく彼女を幸せにできるように、私はね―――





その日黄泉へ誘われた少女は、逝き際に笑いました
― 幸 せ を あ り が と う 、 ハ チ ―




気づけない、気づかない
少年が絶望を見るのは、幸福な時間が終わりを迎える、もう少しだけ後の話・・・




ただしてくれたら
 それでよかったのに