もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

意地っ張りの2人


ぺしん、と軽い衝撃


「いてっ」
「自業自得だ、このアホ左ヱ門」


見上げればそこには呆れ顔をした雪斗がいた
俺はへらーっと愛想笑いを浮かべた
しかし容赦なくもう一度ぱしりと叩かれた


「この点数は何だ?」


叩かれた手とは反対に持っていた紙をぺらぺらと揺らす雪斗
その紙には赤い数字で40点と書かれ、×印が目立つ


「・・・俺の返されたこの間のテスト用紙、デス・・・」
「あぁ、そうだ。お前のテスト用紙だ、八左ヱ門。俺が徹夜して対策を作ってやった、な!」


部屋の隅には手をつけていないまま置き去りにされた、雪斗の作ってくれた対策プリント
俺は雪斗のかけた時間をまるまる無駄にしてしまったのだ
怒りたくもなるだろう
でも俺だって言い分はある


「雪斗の言いたいことは分かるけど、俺だって忙しかったんだ!」
「それは俺もに決まってるだろ!この間のテストは学園長のお使いから帰ってきた2日後だったんだ、俺だってそういう用事で良く居なくて座学に出れてなくてヤバいんだよ!」
「でも雪斗は委員会に入ってないからその分楽だろ!俺は生き物相手にしてるし、上が居ないから、その分俺ががんばらないといけないんだよ!」


雪斗とは違う!
そう叫ぶように言えば、雪斗はそうか、と呟くように言った


「八左ヱ門、お前にはもう付き合いきれん」


じゃあな、と雪斗が踵を返して部屋を去っていった
俺はその後ろ姿にこっちこそ!と叫んだ





それからというもの、毎日のように顔を合わせていた雪斗と、廊下ですれ違うこともしなくなった


「いつまで喧嘩してるんだよ」
「いい加減謝ればいいのにねー」


雪斗と同じい組の兵助と勘ちゃんが、俺にそう言って、俺はぐっと一瞬言葉に詰まった
けれど俺はすぐにいやだ、とつっぱねる


「・・・知らないよ、後悔しても」
「本当にいいのか?」
「・・・っなんなんだよ、そんなに!」


しつこい2人に俺が聞けば、兵助と勘ちゃんはどことなく心配そうな顔をしていった


「雪斗の"学園長のお使い"は忍務だ、ハチ」
「いつも居ないのは、そう言うことなんだよ」
「・・・待てよ、それって・・・」


もし、大怪我をしたら
もし、死んだら
もう会えないってことか?
俺は急に怖くなった
俺は雪斗の死に顔を、見るのか?


「ねぇ、ハチ。雪斗と仲違いしたままは嫌でしょ?」
「今だって、雪斗はお使いに行ってるんだ。だから、帰ってきたらちゃんと仲直りするんだぞ」


俺は、2人に頷いて返した








「雪斗!」
「・・・なんだ」
「ごめんっ、俺・・・まだ雪斗と居たい」


帰ってきた雪斗に、顔を合わせて一番にそう言えば、雪斗はそっぽを向いて、小さく俺もだ、バカ左ヱ門と言うのが見えた






意地っ張りの2人