もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

9月の雨


しとしと

雨が降る
最近まったく雨が降っていなくて、だからこれは恵みの雨


「・・・ねむ・・・」
「おまえなぁ・・・」


そう私が呟けば、となりにいる三郎は面白くなさそうで
まあ、折角一緒にいるのにこんな態度じゃ、呆れるよね


「昨日夜更かししてたから、誰かさんのせいで」
「・・・それは悪かったと思ってるけどな・・・」


ぶすっとしながら、それでももうちょっと私を構ってくれてもいいだろう、と呟く三郎は子どものようで
私はくすくすと笑った


「・・・茜はいつもそうだ、私のことを笑う」
「馬鹿にして笑ってるわけじゃないよ、三郎が可愛いから笑うの」
「男が可愛いといわれて嬉しいわけないだろ」


可愛いは女に使うものだ、と少しむくれる三郎
そんなところが可愛いって言うのに、きっと三郎は気づいてないのね


「それに、そんなこといったら茜のほうが可愛いし、綺麗だ」
「お世辞を言っても何もでないわ」
「本当のことだから」


少し顔に赤を乗せてそういう三郎はとっても可愛らしい
けれどそれ以上に私に向けられるその言葉は本心からだと分かっているから


「三郎、大好きよ」
「俺だって茜が好きだ、愛してる」


私はそう返してくれた三郎の頬にキスを落として、ビックリしてる三郎の気配を感じながら、彼にもたれた



しとしと

雨の音が子守唄のようにしんと静かな部屋に響く
少しだけ寒くなった秋の初めの気配に、私がふるりと身体を震わせると、三郎は私を腕の中に入れてくれた

とくんとくん

三郎の生きている音が聞こえる
暖かな腕の中で、私は眠りに落ちた





9月の雨