もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

謝罪の言葉は優しくて






「ガチガチに固まってるけれど・・・大丈夫か?兵助・・・」
「は、い、緊張してますけど、多分」
「・・・そ」


夜の帳はすっかり落ちて、刻は深夜に近い
というのに、一つ下の後輩は、強張った顔で俺の前に座っていた
俺も兵助も夜着を着て、座る隣には布団が敷いてある


「兵助」


俺は名前を呼ぶと、強張った表情のままの兵助の手を引いて、こちら側に倒れてきた体を抱き寄せる
体制を崩したことで、兵助はわっと小さく声を上げた
俺は抱きしめた兵助の背中をゆっくり撫でた
そのうち兵助の体から、力が抜けていくのが分かる


「俺も、去年は委員長だったよ」
「そう、だったんですか」
「あぁ。俺も怖くてね、今の兵助みたいに緊張してた」


俺の性格からしたら考えられないだろ?と笑う
すると兵助も、そうですね、と薄く笑みを浮かべた
ポンポン、と頭を撫でる


「一個上に委員会の先輩がいないとな、誰になるかわかんないんだって、先代の委員長がいってたよ。そっからしたら俺は先輩が居たから良かった」


授業の一環とはいえ、親しくない人に抱かれるっていうのは、辛いってさ、先輩は言ってたよ
そう言えば、兵助はぴくりと一瞬体をこわばらせた


「・・・怖い、です、雪斗先輩・・・っ」
「誰だってそうさ、仕方がないで済ませたくなんかない、できればやらせたくない。でも、全員が通らないといけない道だ」
「・・・はい・・・」





ごめんな





俺は兵助の耳元でそう呟いて、兵助を布団に寝かせた





謝罪の言葉は優しくて