もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

狂愛に濡れて


月明かりの照らすその場所で僕は大の字に寝転がっていた
手足は周りの木々につながれて、腕は刃物による傷から血が流れ出ていた


「・・・痛いよ、勘ちゃん・・・っ」
「当たり前だよ、痛いようにしてるんだから」


そういって勘ちゃんはにこりと笑った
僕は勘ちゃんが大好きだけれど、勘ちゃんは僕が嫌いで
事あるごとにこうやって僕を痛めつける
それは言葉だったり刃物だったりいろいろだけれど


「ひゃ・・・ぅ・・・勘・・・ちゃ・・・」
「ねえ、雪斗、痛い?」


つぅっと切られた腕の傷をなぞられて、僕は小さく悲鳴を上げた
勘ちゃんはそんな僕を見て笑った


「・・・あ、ぅ・・・勘・・・ちゃ・・・い、たいよ・・・」
「うん、もっと痛がって」
「あぁっ!」


僕が痛いといえば、勘ちゃんは嬉しそうに笑って、今度は足にクナイを滑らせた
白い肌に紅い血が滴る


「ねぇ、雪斗、みんな雪斗の事なんて本当は大嫌いなんだよ、その中でも僕は雪斗を嫌いだと言ってあげてるんだ。それなのに雪斗を大嫌いなやつらに擦り寄って・・・」
「ぁ・・・ごめ・・・なさ・・・」
「今まで"嫌い"で居てあげたのに、雪斗は僕の優しさを否定するんだね」


勘ちゃんは僕の顔を覗き込んだ
そうして月を背景にして笑む


「かん・・・ちゃ・・・」
「ねえ、雪斗・・・雪斗は誰のもの?」
「僕は勘ちゃんの・・・んっ・・・」


言い終わる前に塞がれた唇
勘ちゃんのは僕の体に無数にある、まだ治っていない傷に爪を立てる
びくんと体を震わせて、僕はその痛みに耐えた
勘ちゃんが僕から離れると、僕は酸素を求めて呼吸を早めた
開かれた傷口はずきずきといたい
足のさっきつけたばかりの新しい傷口を、勘ちゃんはぺろりとなめる


「ふ・・・ぁう・・・勘、ちゃん・・・汚いよ・・・」
「雪斗のものは全部僕のものだから、その汚いモノも含んで全部僕のものだよ」


口答えしたら、もう"大嫌い"になるよ?
そういって勘ちゃんは、妖艶に笑った




に濡れて