もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
ある会長の話


簡易人物紹介
野瀬紫苑(のせしおん) 生徒会長
羽住尚人(はずみなおと) 不良クラスリーダー、ヤンデレ
――――――――――

ぎり、と拳を握った
笑みを浮かべた羽住の姿を、俺は睨んだ

「約束は守ってもらうよ?会長」

一人の転入生に壊された学園
それを直すために奔走した俺は、リコールという全校生徒の裏切りで会長職を追われた
新しい会長は転入生
俺は、クラス落ちだ

「これで会長は俺だけの会長だ。・・・ねぇ、紫苑」
「・・・羽住」
「転入生なんて嫌いだよ?でもね・・・紫苑が俺のところに堕ちてきてくれるなら、いくらだって偽りの言葉を、表情をあげるんだよ」

そっと壊れ物を触るかのように、俺の頬に手を添えられた羽住の手
そんな羽住の視線から、まるで逃げるように、俺は視線を逸らした


不良クラスの頭とうたわれるこいつ・・・羽住尚人から、視線を感じたのはいつからだったか
視線なんて、歩く先々でいつも集めていた俺は、最初その視線も、大多数と同じだと思っていた

それが、勘違いだと気がついた時には、既に手遅れ
生徒会だけでは飽きたらず、不良の頭を虜にしたと、そんな噂が流れたのは、編入生が来て一ヶ月後
そのころの俺は、他の役員たちが仕事をしないためにできた書類の山に向かっていた
だがある日、俺の城にズカズカと踏み込んできた編入生に、面と向かって言われたのだ
" お前みたいなヤツが生徒会長だから、この学校は良くならないんだ!! "と
どこをどうしたら、そんな思考に行き着いたのか、俺には到底理解できなかった

常に"会長"が最初に働きかけ、方法を示し、それを浸透させ、学校を良いものに変えていくこと
それが代々俺たち会長職に就いた者の務めだ
今までの会長がすべてそうだったとは言い切れないだが、少なくとも俺の知る限りの会長たちは、常に学園を第一に考え、生徒が安全に暮らせるようにと、そう考えて、何代もかけて変えるために働きかけてきたんだ
だから俺も、先代の意志を継いで俺なりに学校を良くすべく動いてきた
俺の代で、やっと親衛隊の負の連鎖を止めるきっかけが作れそうだった
対話を持って、平和的に、その意識が変えられそうだったのだ

それを、編入生はすべてぶち壊した
何年もかけて、俺たちが積み上げてきた物を、一瞬で

俺自身の親衛隊長に、他の親衛隊に制裁を止めるよう働きかけを頼んでも、他の親衛隊に通じないままに激化する制裁
モラル意識が低下し、犯罪が増えていく
どうにかそれを阻止しようと働きかけても、俺一人ではどうにもならない
自分の無力さを嘆く暇なく、増える書類に追われ
生徒会室にこもる日を過ごせば、ありもしない噂を流されて、虚像だけで俺を見ていた奴らは、皆敵に回った
もちろん、前代の会長や親衛隊長にその幹部、風紀、それに各専門委員長は俺が学校のために尽力していると分かってくれていた
だが、結局は数に勝る事ができず、成立したリコール

その後で知ったのだ
羽住が、仕組んでいたと
親衛隊長が、泣きながら教えてくれたのだ
羽住尚人相手に、為す術が無かったと
守るための親衛隊でありながら、守れずに本当に申し訳ないと

新しい生徒会長は編入生、以下役員は変わらず
編入生は俺にクラス落ちを命じた
羽住が、退学にするよりも、クラス落ちの方が辛い、とでも入れ知恵したのだろう
「紫苑・・・俺の、俺だけの紫苑」

うっとりと俺を見つめる瞳の奥には狂喜が見えた
・・・学園を去ることは、俺のプライドと家柄が許さない
羽住の場所へ堕ちるのも、時間の問題なのだろうか

「紫苑、もうどこにも行かせないから」

そう言って強く抱きしめられた身体が、痛かった


ある会長の話


修正 2011/12/05

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