1 どっしりと構える鉄の門 よく見れば細かい細工が施され、それがただの門ではないことが分かる 広大な敷地と、外の世界を隔てる門は、誰も外には出させないし、入れさせないとばかりにその口を硬く閉ざしていた 「・・・どうやって入れば・・・」 インターフォンも無ければ、良くある通路用口も無い門 背の高い門は、よっぽど慣れていない限り上ることは出来ないだろう そもそも、普通に暮らしていればよじ登る、なんてことは無いはずだ そんな門の前に佇む彼、神薙紅葉は腕時計に視線をやる 15時を10分程過ぎていることを確認して、紅葉はため息をついた 「・・・帰りますか」 元々紅葉はこの学園に来るつもりはさらさら無かったのだ きちんと学校にだって通っていたし、そこでそれなりの成績だって修めていた それなのに行き成り1ヶ月後から目の前の学校・・・白鷺学園高等学校に通えと通知が来たのだ 人並みにいた紅葉の友人達はこぞって反発してくれたが、上から来たのは決定事項だの一言 学力特待で通っていた紅葉自身が下手に逆らうことも出来ず、結局紅葉は白鷺に編入することになった 新しい年度の始まる4月1日の15時 その日に白鷺学園校門前に、と指定してきたのにもかかわらず、時間を過ぎても現れない案内役に、既に紅葉は呆れていた 紅葉はもう一度ため息をつくと、くるりときびすを返し、少し離れた場所にあるバス停に向かう 確認した時刻表が示す次のバスは15時30分 紅葉が門の前で確認した時間よりも既に5分経っているため、15分後に来ることになる バス停に備え付けられた椅子に座り、携帯電話を取り出した紅葉はかちかちとメールを打つ “そちらに帰ります” 件名も無く、一言だけ送られたメール すぐに紅葉の携帯電話が光り、メールの受信を知らせた “えっ、紅葉、帰ってこれるの!?” “時間になっても案内人が来ないので、構わないかと” “うわ、なにそれ、最悪だね。でも帰ってこれるならみんな喜ぶよ” きっと帰ったら向こうはお祭り騒ぎになるんだろう、と想像した紅葉は知らず知らずのうちに薄く笑みを浮かべた 友人のメールに返事を返そうとしたとき、人の足音が聞こえた 紅葉が顔を上げると、そこにはきっちりと制服を着込んだ人物がこちらに歩いてきているのが見える 特に急いだ様子も無く、背中をぴんと正して優雅に歩く姿はまさに王子様、と言えるだろう しかし、紅葉にとってその人物の行動は不愉快極まりないものだった 「君が編入生くんかい?」 「・・・えぇ」 「おかしいな、約束は校門の前だったはずだけど・・・まあ、時間がおしてるから、とりあえず着いてきてね」 悪びれも無くそういった案内人であろう人物に、紅葉はこの学園はろくなところじゃないだろう、とばれないようにため息をついた 普通、招いた人物・・・それが例え年下であったとしても、ホストが先についているのは当たり前ではないのだろうか、と紅葉は思ったのだ 少なくとも、彼がそれまで通っていた黒鷺では年下であろうが無かろうが、招く方が先に居るのが普通であったし、初対面では敬語なのが普通であった せっかく帰れると思ったのに、と思いながら立ち上がると、“やっぱり帰れないみたいです”と打ったメールを送信し、携帯を閉じてさっさと前を歩く人物に追いつくべくキャスターを引いた 執筆 2011/09/20 修正 2011/10/07 [←] | [→] |