もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
6



501とプレートの貼られたドア
備え付けられたカードリーダにカードをかざし、紅葉は室内へ入った
ぱたんと紅葉の背後でドアが閉まり、カチリとオートロックがかかる
玄関で靴を脱いだ紅葉はバックを壁際に置くと、部屋の間取りを確認した
広めのキッチンには冷蔵庫と言った家電、それにオーブンも備え付けられている
お坊ちゃま学校にどれだけ自炊する生徒がいるのかは分からないが、それにしたってやけに設備が良い
ドアで仕切られている部屋の一つに入ると、そこは洗面台が備え付けられ、隣には洗濯乾燥機が取り付けられていて、その奥に広いバスルームが見えた
また別の部屋は寝室になっており、セミダブルのベットと、勉強机、それにクローゼットが備え付けられていた
それ以外に、何故か辞書や参考書が入った本棚と空の本棚が備え付けられ、中央に6人がけの机が置いてある部屋があった
それにちょっとした図書室のようだ、と紅葉は零した
部屋を確認した紅葉は、持ってきたバックを開き、その中から取り出したミニアルバムを寝室の勉強机の上に、写真立てを玄関に有った棚の上に置いた
写真立ての中には、黒鷺の制服を着て笑う紅葉と友人達の姿が写っており、それを見て紅葉は少しだけ笑った
紅葉は寝室に戻ると、積みあがっていたダンボールをあけて片付けに勤しんだ




生活感の無い部屋から、紅葉の私物が配置され、部屋らしくなった部屋を見て、紅葉はふーっと息をはいた
時刻は既に19時を回っている
食堂がいつまで開いているのかは分からないが、遅くなる前に行ったほうがいいだろう、と紅葉はカードキーと携帯を持つと、部屋を出たと、そこで視線を感じて、視線を感じる方を見た

「さっきの、エレベーターの・・・」
「そこから出てくるってことは、君が主席なんだね。僕は宍戸忍、隣の302なんだ、よろしくね」
「私は神薙紅葉です。よろしくお願いします」

にこり、と笑った忍に、紅葉は軽く頭を下げた
忍はそれに少しだけ驚いた表情をしたが、すぐにその表情をひっこめた

「この時間だったら、食堂に行くところだったの?」
「えぇ、先ほどまで部屋の片付けをしていたので、この時間に」
「そっか、じゃあもしよければ一緒に行かない?せっかくだからこの学校のこと色々教えるよ」

紅葉は忍の誘いに頷いて了承し、共だって食堂に向かった
やけに大きな扉を開けて入った先は広い空間
開いた扉の近くに居た生徒の視線が紅葉と忍に向けられ、ざわりと空気が揺れた
それがさざなみのように食堂内に広がる
揺れる空気に、紅葉は思わず眉間にしわを寄せた
このざわめき方は悪意に近いものだろう
面倒くさそうなことになりそうだ、と忍にばれないよう小さく紅葉はため息をついた

「紅葉くん、ここにしよう?」

少し歩いたところにあった席に忍が座り、紅葉も向かい側に座る
テーブルに備え付けられた端末機械に忍が手を伸ばした

「注文はこの端末からで、こうやってメニューを選んで、上のカードリーダにカードを通せば注文されるよ。出来上がったらウェイターさんが持ってきてくれるんだ。はい、紅葉」
「ありがとうございます、忍」

注文の終わった端末を忍から手渡された紅葉は、すぐに選んでカードを通す
ぴぴっと電子音が鳴って、注文しました、と画面に出たことを確認し、はじめにおいてあった場所に端末を戻す

「紅葉くんって編入生だよね?どうしてこの学校に来ようと思ったの?すっごい編入試験が難しいって聞くのに・・・」
「元々は兄弟校の黒鷺高等学校に居たんですよ。自分の学校だけではなく他校の事も知るべきだろうと言うことで白羽の矢が立ったのが偶々私だったんです。ですからどなたかこちらからも1名黒鷺に行っていると思いますよ」
「あ、じゃあ僕の同室が予想してたのと違ったのってそういう理由だったんだ・・・。僕紅葉くんが来る前は主席だったから一人部屋だったんだけど、次席からは二人部屋なんだ。A組の僕の次に順位の高い子と同室だと思ってたんだけど、違ったから・・・」
「ではきっとその子が黒鷺に行ったんでしょうね」

話がひと段落ついたところで、ウェイターが食事を持ってきた
忍の前にはカルボナーラとサラダ、それに紅茶が、紅葉の前には春蒸しをメインにした和膳は置かれた
紅葉はウェイターにありがとうございます、と言うと、ウェイターは一瞬動作を止め、いえ、こちらこそありがとうございます、と返して去っていった
そのやり取りを見ていた忍は不思議そうに瞬きをして、紅葉に話しかける

「紅葉くん、ウェイターは仕事なんだから、別にお礼なんて言わなくてもいいんだよ?」
「仕事だからというのは余り関係ありませんよ。ただ私は、何かをしていただいたら感謝するようにと家で言われてきました。・・・ですから、忍が無理して真似をすることは有りませんよ、私がするのは、そうしたいだけですから」
「そっか・・・。なんか新鮮だね、やっぱり外部の人だからかな?」

そういって忍はにこりと笑うと、食事に手をつけたため、紅葉もいただきます、と手を合わせ箸を取った
執筆 2011/09/22 修正 2011/10/19

- 10 -
[] | []