もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
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相変わらず硬く閉ざした門が、先ほどと同じように目の前に聳え立つ
目の前の案内人が取り出したカードを、脇にあるカードリーダーにかざせば、ピっという電子音と共に動き出す門
後ろの様子などまったく見ないまま、すたすたと歩く案内人の後について行くこと15分
白亜の建物が見え、その建物が校舎であることを悟る
白鷺の兄弟校であり、紅葉が先日まで通っていた黒鷺も、同じように広く、また学校とは思えない校舎や寮だったからだ
つくづく金持ちは無駄が好きなようだと頭が痛くなりそうだったが、無言で紅葉はただ歩く

「そうだ、言い忘れてたけど、この学校は幼稚舎からずっと男子校でね。性的欲求が全部男に向いてるから、ホモとかバイの巣窟なんだ。・・・まあ、君みたいなレベルの顔はこの学校に沢山居るし、問題はないと思うけどね」
「・・・そうですか」

前を歩く案内人の言葉に、紅葉は黒鷺で友人だった人物の言葉を思い出した
紅葉って眼鏡変えるだけでホンット印象違うよねと言った友人に貰った黒い縁の眼鏡
目立ちたくないならこっちの方がいいよといわれるまま買ったスペアだったが、それが思いの他役に立ったらしい
黒鷺では表立っては騒がれていなかったものの、顔が良いと言われてきた紅葉にとって、目立たずにいられることは願ってもないことだった
そのまま歩いて建物の中に入ると、案内人がエレベーター内部にあるカードリーダにカードを通し、最上階のボタンを押す

「僕の案内はここまで。最上階に着いたらすぐ理事長室があるから、そこにいってね。・・・あぁ、名乗り忘れてた、僕は生徒会副会長の佐治深雪。よろしくするつもりは無いけど、一応覚えておいてね」
「案内ありがとうございました、副会長さん」

紅葉が言ったと同時にエレベーターの扉が閉まり、上昇する
一人になった空間の中で、紅葉は思いっきりため息をついた
どこまでも自分勝手な人だったが、アレで生徒会副会長などと名乗れるこの学園の非常識さに今後の学校生活が思いやられるような気がしていた
話し相手もいないため、ぼーっとしていれば、すぐにチン、と音がなって扉が開いた
赤い絨毯が敷かれたフロアは、目の前に大きな扉があるだけで、ほかに行ける場所は無い
紅葉が扉をノックすれば、中から扉が開けられた

「どのようなご用件ですか?」
「編入生の神薙紅葉です。こちらに来るように案内されました」
「神薙くんですね、お伺いしております。こちらへどうぞ」

通されたのは応接室のようだった
理事長がくるまで少々時間を要しますので、こちらでお待ちください、と紅茶とショートケーキが出される
お礼を言ってから紅茶に手を伸ばした
ふわりと香った香りに、アッサムのストレートのようだとあたりをつける

「私理事長の第二秘書をしております、三宮利親と申します」
「ご丁寧にありがとうございます。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします、三宮さん」

紅茶を置いて頭を下げれば、利親は少しばかり驚いた顔をした
それに気づいた紅葉が何か粗相でもしたかと首をかしげると、利親はゆるく首を横に振った

「いえ・・・この学園の生徒はその・・・少々礼儀が・・・」

利親が零した言葉に、紅葉はあぁ、と納得した
副会長の佐治深雪がああなのだから、生徒たちもそういうことなのだろう
もちろん全員がそうだということではないが、と付け足した利親はため息をついた

「神薙くんの通っておられた黒鷺はここ白鷺と兄弟校で似ていますし、その、失礼ですが内情も同じなのかと思っていまして・・・」
「ここがどうなのか、私は分かっていないので、正確なことは言えませんが・・・少なくとも、常識は世間一般と近いです。どうしても同性愛者の割合は多いですが、それが一般的に罷り通ることではないと認識もしています。学校に居る間は、誰もが皆同じ学生であり、家の上下関係も関係なく、一個人の能力を評価しますね」
「そうですか・・・それを聞いて安心しました。この学園の主要な役職は顔で決まる傾向がありまして・・・。由々しき問題だとは思っているのですが、幼稚舎から当たり前であるために、それが異常だと認識しない生徒ばかりなのです」

おかげで学校の顔である生徒会が本当に顔だけの代も・・・と零す利親
垣間見える白鷺学園の異常さに、紅葉は頭が痛くなった



執筆 2011/09/20 修正 2011/10/05

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