もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

"君"と"僕"を見守る彼らより


side:作兵衛


方向音痴がただの方向音痴じゃなくなって2年
長い道のりだったな、と二人を見ながら思う


「左門たち恋人同士だったっけ?」
「三之助お前野暮なこと聞くんじゃねぇ!」


きょとんとしてそんなことを口にした三之助を一発殴って
やっと見つけた左門の想い人である天雨を見る
面影はあるものの、記憶の姿よりもずいぶんと細くなっていた
金持ちの道楽として飼われていたんだろう事は伺えるものの、意思はしっかりとしている


「左門、再会を喜んでるところで悪いけどそろそろ出るぞ」
「あ!ごめんな作っ。さゆり、立てるか?」
「うん、大丈夫」


天雨が立てばしゃらりと音が鳴る
左門が繋がっている足を覗いてから、俺の名前を呼んだ
どうやら出番らしい


「作、これ取れるか?」
「おう、ちょっと待ってろ。天雨、もし怪我させたらごめんな」
「ううん、気にしないで。ありがとう富松くん」


手持ちにある忍器で天雨の足かせを外すと、左門は天雨の肩と膝裏を持った
天雨はその体制に小さく悲鳴を上げる
戸惑いがあるようだったが、それでも嫌がっている様子はなくて
まんざらでもないのか、と笑みが浮かぶ
左門は天雨の悲鳴にはお構いましに、よし、いこうっ、と言ってさっさと部屋を後にする
俺は三之助と顔を見合わせて、肩をすくめると、続いて部屋を出る

遅いぞ、二人とも!と左門がいつものように言う台詞は、心なしか嬉しそうで
少しだけ緊張した表情ながらも、同じように少し嬉しそうな天雨
そんな二人に、三之助が笑って、二人の場所まで小走りで向かって
俺も続くように二人の元へ走る

誰も居なくなった部屋には、繋ぐ者が居なくなった鎖が残るだけだった



"君"と"僕"を見守る彼らより


二人ならば せになれると確信している



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