もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

ひとりで悩んだりしていませんか?



side:左門



気がつけば学園を出て面影を残す女の人を探して
作や三之助にも諌められて、それでもやめられなくて


「左門、お前いい加減諦めろよ」
「ぼくだって諦めたい、でもなんか諦められない!」


ぎり、と握った手のひらに爪が食い込む
天雨が居たら強く握った拳を開いてくれたのだろうか?
それも今はただの想像

天雨さゆりという行儀見習いのくのたまが居なくなって、既に2年と半年の月日が流れていた

ぼく達は、後半年で学園を巣立つ
昔のように、迷子になって作に探させることは・・・なくなったとはいわないけど少なくなった
後少しで一人前だから、そうしたら、彼女を探しに行こう


「・・・さゆり」


見上げた空は、青い



―――――
side:さゆり



暇さえあれば、繋がっているだろう青空を眺めて
目を閉じて、思い返せば美しかったと言える日々に思いを馳せる
きっと私はこの籠の中から一生出ることはなく、玩具として過ごすのだろう
売られた女などそんなものだ

くの一の心得を受けて居なければ、もっと早くに心が病んでいたかもしれない
それでも、じわりじわりと来る絶望の気配に、ただの人形になる日も近いかもしれないと頭のどこかで思う

最後に、彼の姿をひと目見たかったと、今でも思うけれど
未練がましい思いだと、きっと彼は素敵な人だったから、どなたか一緒になる方も既に居るだろうと、そう言い聞かせて
今もまだ、方向音痴はなおっていないのだろうか
作兵衛くんに、迷惑をかけているのだろうか

ぽろりと涙がこぼれた
まだ、私は泣けたんだ、と変な風に驚いて
でもきっと、私が泣ける理由は、左門くんだけ

矛盾してるけど、それでも私が願うのは
私を忘れて幸せになって欲しいという思いと
私を忘れて欲しくない、心の片隅でいいから覚えていて欲しいという思い

ごめんね、想うことだけは許してください

繋がるどこかの空の下に居るであろう彼に、私はそう心の内で謝罪した




ひとりで悩んだりしていませんか?







- 4 -


[*前] | [次#]
ページ: