最後に笑顔は見たのはいつでしたか? side:左門 ぼくにとって、天雨さゆりという人は、くのたまの敷地に迷い込んだ時に、作兵衛の元に連れて行ってくれる人 そういう人だった 「あれっ、ここはどこだ?」 「神崎くん・・・また迷い込んだの?」 「あ、天雨!じゃあここはくのたまの敷地なんだな、ならば教室はあっちかー!」 教室に行くために走っていれば、いつの間にか出ていた外 春の風が吹いて、桜の花は開花のときを今か今かと待っている 頬を撫でる風は暖かくて、授業がなければ居眠りをしてしまいそうだ そんな考えて走っていたからか、いつの間にかあまり見覚えのない場所に居た 声を上げれば、建物から聞こえてきた聞き覚えのある声 振り返れば長い髪を結わずに風に遊ばせた天雨の姿 小袖だったから、きっと作法の授業だったんだろう くのたまの敷地に入ってた事がばれたら、作兵衛に怒られるからそうそうにもどろうと思ってくるりときびすを返せば、慌ててかけられる声 「ちょっとまって。そっちは私たちの長屋だからっ!」 「ならこっちか!」 「そっちは裏門に行くからっ!落ち着いてってば!」 慌てて降りてきてぼくの手を掴むと、そのままどこかに向かっているのか手を引かれた 大体こういうときは、天雨が作の元に送り返してくれる でもそうすると、いつも怒られるからあんまり好きじゃない 作の説教は長いんだ これはぼくの日常で きっと卒業まで変わらないんだって思っていたでも、それは唐突に崩れ去って いつものように学園内を走っていると、いつの間にかくのたまの敷地に行ってしまって いつもみたいに天雨にまた作のところ連れてかれてお説教かとちょっと憂鬱になった でも、いつまでたっても天雨がぼくを見つけることはない 「あれ・・・三年の神崎左門くんだっけ?また迷子?」 仕方ないから忍たまのほう連れて行ってあげるよ、と声をかけられたのはくのたまのところの先輩だった いつもぼくを見つけるのは天雨の仕事で、誰か他の人が見つけても天雨をわざわざ呼んで連れて行かれたのに そうやって疑問に思えば、苦笑した先輩の姿 「さゆりもかわいそうよね。行儀見習いだから最後まで居ないって分かってたけど、いきなり家から帰って来いって言われて、皆よりも早く帰っちゃったんだから」 そう思わない?と振られたけど、ぼくはそれどころじゃない 天雨が居ないって、それも行儀見習いだったって・・・ 話しかけてくれる先輩の声は正直全然聞こえてなくて いつも慌ててやってきては、困ったようにいいながら、結局仕方ないな、と笑う天雨の笑顔が頭から離れなかった 最後に笑顔は見たのはいつでしたか? [*前] | [次#] ページ: |