もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
春空の下







きゃいきゃいと一年生と戯れる鈴音さんをぼーっと縁側で見つめる
名目上は身の回りの世話だが、監視もかねているが故に離れられないのは事実だ
まあ、それでも普通は堂々と監視なんてしないのだけれど
といっても、くのたまは委員会に所属しなければならないわけではないし、今週は掃除当番でもない
予習復習、と言っても5年生にもなれば正直座学よりも実習のほうが多いため、そんなにやることは無い
6年生のように鍛錬でもしろと言われそうだが、それでは私は周りが見えなくなりそうだから、与えられた仕事をこなせない可能性が高い
よって私が出来ることといえば、彼女を見守るくらいしかないのだ
ふわぁーとあくびをする口を手で押さえる
ぽかぽかと降り注ぐ日の光りが暖かくて、眠たくなる
そういえばこの時期は桜の木に登って昼寝をしているから、それでかなと思いつつ、鈴音さんから目を離すことはない


「一縷さん」
「こんにちは、不破くん。図書委員の仕事ですか」


本を抱えた不破くんが通りかかり、声をかけてきた
来た方向は長屋・・・それも確か6年生だ
6年生といえば、6年い組の潮江文次郎先輩が期限破りの常習犯らしいと聞いた
その回収なのだろう、やけに難しそうな題名がちらりと見えた


「鈴音さんはどうやら運動が苦手みたいで、よく見当違いのところにボールを飛ばしたりするので、早く行ったほうがいいかもしれません」
「え?でも普通の人のボールくらい、避けれるよ?」
「本に何かあったら中在家先輩が怒るかもしれませんし」


といっても、こちらに飛んでくるとは限りませんけど、とこぼしたとき、こちらにぽーんと飛んでくるボール
どうやら1年は組の子が飛ばしたものらしい
それを私は受け止めると、ぱたぱたとかけてきた鈴音さんに渡した


「ほのかちゃん、やらないの?」
「やってもいいんですけど・・・ちょっと手加減が出来るかわからないんで、やめておきます。誘ってくれてありがとう、鈴音さん」


返されたボールを持ちながら、私を誘った鈴音さんに、苦笑しながらそう返して
私は暴君と言われる七松先輩ほどではないけれど、やっぱり上手く力加減が出来なかったら困るから
残念そうな鈴音さんを促して、鈴音さんはしぶしぶと1年生の元に走っていった
その後姿を見送りながら、微笑ましいなと思いながら笑みを浮かべれば、後ろから声がかけられる


「・・・一縷さんは、そこまで心配しなくてもいいんじゃないかな?」
「でも、万が一怪我をさせてからでは遅いですから」


変な風に近づかないほうがいいんです、と笑った
実際、遊ぼうとして、村では怪我をさせてしまったこともある
七松先輩のように、己の力を誇示して怪我をさせたとしても余りある尊敬の念というのを受けるのは、私には無理というもの
だって、死にたいのに友人達に後ろから刺されたくなくて、笑みを浮かべてのらりくらりとその場をやり過ごしているような人間だから


「不破くん、そろそろ行ったほうがいいんじゃないですか?」
「あ、そっか。ごめんね、なんだか長居しちゃって」
「いえ、私こそ引き止めてしまってごめんなさい」


委員会、がんばってと言って笑みを浮かべれば、ありがとう、とふわりと笑った不破くん
そういって別れた後、私はまたぼうっと日の光りに当たりながら鈴音さんを見守った




春空の下


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