もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
血の臭いは夜に混じる





自宅に帰って、血の臭いが落ちない服を脱ぎ捨てる
血で固まった髪が鬱陶しい
こんなに血の臭いがしていたら、不破くんに要らぬ迷惑をかけてしまう


「・・・お風呂、入らないと」


学園のようにいつでも入れるわけではないから、今から沸かさないといけないけれど
のろのろとした動きで私は着替えを持つと、血のついた服と一緒に浴室へ向かった



―――――
side:雷蔵


ふいに目を覚ますと、何か違和感を感じた
それが血の臭いだということに気がつくのに、そんなに時間はかからなくて
何かあったのか、と僕は飛び起きる

周りは暗くて、まだ夜だという事が分かる
障子戸を明ければ、月が輝く夜空
月の位置は高くて、まだ真夜中であることをしめしている
真夜中なんて、忍者のゴールデンタイム真っ只中だ
そんななかの血の臭いなんて、嫌な予感しかしないに決まっている

急ぎ、けれど物音は立てないよう気配を殺して、血の臭いを辿れば、たどり着いたのは浴室に繋がる戸
濃い鉄の臭いが、そこが臭いの元だと主張する
水音が聞こえるから、きっとこの中に誰か居るんだろう
そして、居るとすれば、それは一縷さん以外居ない
だって、この家は一縷さんのものだから

僕はくるりときびすを返すと、浴室に繋がる戸の前を後にした


―――――
side:ほのか


ぬるい湯に髪の毛をつけ、固まった血を洗い流す湯は赤く染まり、足元を流れてゆく
洗っては湯をかけ、またつけて湯に溶かすの繰り返し
湯が血で染まらなくなるまで、何度その作業を繰り返しただろうか?
その回数すら分からなくなるほどに、私は血で穢れていた


「・・・わたしは・・・ただ・・・―――」


言い訳がましく呟いた言葉は、けれど全て音になることなく、虚空に消えた

自分を正当化することなんて、出来ない
出来るはずも、ない
だって私は・・・鬼の子だから


血の臭いは夜に混じる





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