遠い、あの日に がさり、と鳴らす草の音が、僕らの合図 かき分けた草の向こうに広がるのはぽかりと空いた森の広場 「ほのかちゃん!」 「!らいぞう」 名前を呼べば、こちらを向いて嬉しそうに笑う彼女に、僕も嬉しくなる 僕とほのかちゃんしか居ないから、遊べる遊びなんて限られているけれど、僕らはそれでも楽しかった だって、ほのかちゃんが楽しいと、そう笑ってくれれば僕も楽しかったから この森はほのかちゃんのほかに、沢山の動物が居る 僕らはそんな森を二人で歩く 木を伝うリスや、親子で歩く狸、大きな音を立てて飛び立つ鳥の群れ 二人で手を繋いで、はぐれないように気をつけながら、森を進めば出会う動物達 野生のはずなのに、ほのかちゃんと仲の良い彼らは、僕らが近づいても逃げる様子はない ・・・流石に、触ろうとしたら怒られたけど そんな様子も、ほのかちゃんはくすくすとくすぐったそうに笑う 「みんな人に会わないから、めずらしいんだよ。だからきっとびっくりしちゃったの」 「ぼくもまいにち来てれば、さわってもおこられない?」 「らいぞうならきっとだいじょうぶ。行こ?もうちょっとで着くよ」 「うんっ」 二人で手を繋いで、進んだ先は開けた高台 近くに川が流れているのか、小さくせせらぎの聞こえるその場所からは、街が見えた 「わぁ・・・」 「ここからね、みんなのこと見てるの。おにの子だっていわれても、私の生まれたばしょはここだもん」 「そっか・・・」 笑みを浮かべて、そういったほのかちゃんの顔は、なんだか大人びて見えてなんだかほのかちゃんが遠くに行ってしまいそうな気がした僕は、少しだけ握った手の力を強くした 「ここが、ほのかちゃんの帰る場所、なんだね」 「うん、私の、たいせつな人がいる、だいすきな街」 遠くに見下ろした街は、いつもと変わらぬ雑踏なのか、小さく人が行き交うのが見えた 僕らは顔を見合わせて笑うと、街に背を向けて、また森の中を歩き出す それは、小さな時の、小さな思い出 遠い、あの日に 戻 |