平和な夜 ぱちり、と炭が跳ねた くるりと鍋をかき混ぜ、味を見れば良い具合で、椀によそう 岩魚もからりとあがり、囲炉裏に差した塩焼きも良い具合に焼きあがる お櫃に炊きあがったご飯を移し、塩焼きとから揚げを皿に乗せ、箸休めに揉んだかぶの浅漬けとキュウリとわかめの酢の物の小鉢をつければ、夕食の完成 「不破くん、できたよ」 「わ、一縷さん料理上手だね、凄い美味しそう!」 夕食を見て目を輝かせた不破くんに、私は頬がゆるむ 人に食べてもらうご飯を作るのは、それこそ久しぶりだ 村の人たちからもらうことはあれど、普段居ない私はなかなか作る機会がない 長くいるときは、それこそ多く作ってお裾分けはするけれど、"誰"が決まっている食事なんて、幼い頃まだ私が普通だと思われていたとき、母であった人とともに作った父の食事くらいだろうか? 「・・・?一縷さん?」 「なんでもないから、不破くんは気にしないで?」 知らず知らずのうちに表情が暗くなってしまったのか、どうしたのと言わんばかりにこちらを見ていた不破くんに、私は首を横に振った ――――― side:雷蔵 心なしか暗くなった一縷さんの表情に気が付いた僕は、知らず知らずのうちにじっと彼女を見つめてしまったらしい 気にしないで、と首を振った一縷さんに、僕は気の利いた言葉をかけることができなかった けれど、何故か気にかかるその表情 僕はあの表情をどこでみたんだろう 何かを忘れているような感覚 思い出せそうで思い出せないもどかしさに、ため息をつきそうになる まるで誰かに思い出すなと言われているようで・・・ 「不破くん?」 呼ばれて、はっとすれば、こちらを不思議そうに見ている一縷さんが居た どうやら考えすぎて、ぼうっとしてしまったみたい 「ご、ごめんね一縷さん」 「平気だけれど・・・どこか具合でも悪い?」 「ううん、考え事してただけだから」 慌てて座りながら答えれば、逆に心配されて、僕は恥ずかしくなった それを紛らわせるように理由を話せば、そっか、と言って一縷さんは僕の前に食事を並べた ほかほかと湯気を立てるご飯に、意図せずおなかが音を立てる 「どうぞ」 「あ、いただきます」 一縷さんに促され、僕は箸を取った 食堂のおばちゃんとは違う、けれど優しい家庭の味付けに、僕はほっと一つ息をつく この数日、ここまで一緒に来る中で思った 一縷さんは優しいし、自分をきちんと持っている 守るべきものを自分の手の中で守れるだけに留め、それを守り通すための取捨選択が、良くも悪くもきっちりしてるし、それを決めるための決断だって早いのは、鈴音さんの事でよく分かる でも、それは僕ら忍者にとって、当たり前でなくてはならないこと ・・・それを、きっと鈴音さんが好きな人たちは忘れてしまったんだろう 本人が居なくなってもなお、その影をちらつかせる、僕の幼なじみ とはいっても、僕はぜんぜん覚えてなかったけど・・・ 学園長先生は、なにをしたくて鈴音さんを学園に置いたんだろう? 一縷さんは・・・知っているんだろうか? 答えが出ないまま、僕はその日を終えた → 戻 |