森奥の村 細く延びる獣道は、一見しただけでは分からぬほど草に覆われている その道を辿りながら木の上を移動していた私は、太い枝の上で足を止めた 程なくして、後ろから追いついてきた気配が隣に並ぶ 「・・・街に行ってて良かったのに」 「一縷さんが行かないなら、僕が岩美にいっても意味がないよ」 「・・・ついてくるのは構わないけれど、何もない場所だから」 私はため息をつきながらそう返して、木の枝を蹴った しばらく進めば、視界が開け、家が見えた 周りに広がるのは畑と水田 生活感があふれるその場所は、私の・・・私達の村 「こんなとこに村・・・?」 「いろいろな理由で住む場所を無くした人は多いけれど、岩美は・・・6年前に、他所から来た賊に酷くやられたから、よそ者を余り歓迎してくれないの。それこそ、嫁いできたとか、そういう理由じゃなければ、とても冷たい場所」 きゅ、と軽く拳を握った 目を閉じれば今でも思い起こす、血の海 あの日から、あの街は決定的に変わってしまったから 岩美があんなに閉鎖的になってしまったのは・・・私のせいともいえるのかもしれない そんな思いから、私は罪を償うようにこの場所を作ったのだ 「この場所は、岩美に来たのに岩美に住めなかった人が集まってる。・・・岩美に恨みがあるわけじゃない、けれど今更どこか別の場所に行くことも難しいから、ここに村を作ったの」 「そうなんだ・・・」 「見てのとおり森の奥で何も無いところだけれど、これも何かの縁だし、ゆっくりして行くといいよ」 私はそう不破くんに告げると、一足先に立っていた木の枝から降りた 村の家々が立ち並ぶ中心へ足を進めれば、私に気がついた人々が近づいてくる 「ほのかちゃん、予定よりも戻ってくるのが早いじゃない、どうしたの?」 「少し、学園でごたごたがあって・・・落ち着くまで、こちらに戻ってきたの。正確な日数は分からないけれど、しばらくはここにいるよ」 「ほのかねぇ!おれとーちゃんに狩りの仕方教わったんだ!」 「成長したのね、藤次郎。じゃあまた後で一緒に狩りに行きましょう?」 「ほのかおねえちゃん、ほのか後ろの人はだぁれ?」 「後で皆に紹介するから、そのときでいい?」 「あぁ、気がつかなくて悪いね。藤次郎も菜穂もほのかちゃんを通しておあげ、家に入れないだろう?」 「「はぁい」」 私を囲んだ子ども達を、近所のおばさんが一声してどかすと、私は不破くんに手招きして自分の家に向かった ――――― side:雷蔵 枝から降りた一縷さんを追って地面に降りる 先に歩いていた彼女を追いながら、周りを見れば、周りが森に囲まれていること以外は普通の村であることが良く分かる いつの間にか村の人に囲まれた一縷さんの表情は、学園で見ていたときもどこと無くやわらかい気がした ・・・やっぱり、学園は一縷さんにとって安心できる場所じゃないからだろうか? 正直、今の学園はぎすぎすしていて、僕もちょっと居づらいと思う 早く元の学園に戻ればいいのに、と僕は小さくため息をつき、手招きして呼ぶ一縷さんの元に向かった 森奥の村 → 実際の岩美がどのようなところか、私は知りません;あくまでフィクションの設定として使用させていただいています。ご了承ください 戻 |