もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
過去に繋がる今の前


side:雷蔵


三郎に譲ってもらった忍務を一縷さんに教えるため、僕は滅多に入らないくのたま長屋に足を踏み入れた
いつもならダメだけれど、体調が悪い、というか怪我が治っていない一縷さんに来てもらうのは危険だから、と特別に許可された

そういえば、こうして僕だけで一縷さんのところに行くのは初めてかもしれない
彼女と初めて顔をあわせたときも学園長の庵だったし、その後は鈴音さんが必ず居た
鈴音さんが居なくなってからは一縷さんがこちらに来ることはあまり無かったし
・・・三郎曰く、来ていたらしいけど、僕は会わなかったから


「あれ・・・一縷さん?」


一縷さんの部屋についても、中から人のいるらしい気配はしなかった
どこいっちゃったんだろう、まだ怪我が治っていないって聞いているのに
女の子の部屋だから勝手に入るのもいけないし、でも廊下でずっと立ってるのも・・・
うーん、どうしたらいいんだろう?
迷って寝てしまいそうになるのをどうにか堪えながら、僕は考える
とそのとき、背後から小さく、本当に小さな音が聞こえた
僕が勢いよく振り返れば、そこには見慣れた桃色の制服を所々赤く染めた一縷さ?_FS_AU_SEP_]、一縷さんは首を振って自分の部屋に入っていく
それを見送れば、ふいに一縷さんが後ろを向いて、微かに首をかしげた


「来ないの?」
「え、あ、ごめんっ」


不思議そうに言った一縷さんに、僕は慌てて謝ると、部屋の中に入った

初めて入った彼女の部屋は、驚くほどに物が少なかった
僕が優柔不断でなかなかものが捨てられなくて多くなっちゃうのは確かにあるけど、それにしても最初から備え付けられている文机と戸棚と、小さな小物入れだけ
一縷さんは座布団を僕に進めると、それで、と話を切り出してきた


「不破くんが用事も無くくのたま長屋には来ないよね。私に用事?」
「あ、うん・・・明日から、僕と一縷さんで忍務に行くことになったんだ」
「忍務?・・・ずいぶんと急な話だね」


初めて聞いた、と零しながら、少し驚いたような表情を浮かべる一縷さんに、僕は苦笑した
僕もさっき聞いたんだ、といえば、一縷さんは一つ頷いて納得したようだ


「行く場所は、岩美(※)だって」
「・・・岩美?」


行き先を聞いた瞬間、一縷さんは一瞬だけ表情を変えた
でもそれがなにを意味するのか、僕には分からなかった


過去に繋がる今の前



岩美は学園からそれなりに距離があり、かつて城があったということで使わせていただきました
またこの小説では一年へ組様のこちらの研究レポートにある忍術学園の位置=生瀬説を使用させていただきます


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