もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
片割れの気遣い


side:三郎



「忍務、ですか」
「おぬしと一縷に頼みたいと思っておるんじゃが・・・良いかの?」


学園が一枚岩ではない今の状況に、学園外へ出る忍務
その不可解さに、眉をひそめる
居なくなってもなお未だ鈴音さんの毒牙に絡めとられたままの学園
今正気の生徒を外に出せば、学園を危険にさらすこととなりかねない
だからと言って、正気ではない生徒を外に出すわけにもいかないのかもしれない
・・・最も、彼らが守るべきとした鈴音さんは既に居ないのだから、人質にとられるものなどないのだが
しかし私と一縷の選択には、それなりの意味があるのだろう


「・・・一縷の保護ですか」
「忍務というよりはそちらの方が強いかの」


思い当たることを口に出せば、片目を開けてさらりと言った学園長
今一縷の立ち位置は危ないものだ
六年生を筆頭に、学園の大半の生徒から命を狙われ、その上で学園に近づく刺客たちを亡き者にするため連日血を流す
私が気がつかなければ確実に死んでいただろう傷すらもひた隠す
今の学園の生徒達に、そうまでして守る価値など無いと私は思うが、そこまでして守るのには意味があるんだろう
そこまで考えて、ふと例の言葉を思い出した

"・・・ら・・・ぞう・・・?・・・ご、め・・・なさ・・・"
"三郎・・・僕、もしかしたら一縷さんと小さいときに会ってたのかもしれない"

悪戯好きの鉢屋三郎の頭がもたげる
大切な双忍の片割れの彼と、その幼馴染と思われる哀れな彼女の二人のためにのために、一肌脱ごうではないか


「学園長先生、その役目、私ではなく・・・――」




―――――
side:雷蔵



「え、一縷さんと?」
「あぁ、わたしの代わりにいってきて欲しい」
「でも・・・三郎が呼ばれたなら三郎じゃないといけなかったんじゃないの?」


唐突に言われた忍務に、僕は戸惑う
だって忍務を言い渡されるとき、本来ならば学園長先生の庵に呼び出されて言われるものだから
学園長先生じゃないにしても、先生方の誰かからだ
それが、今回は三郎から
戸惑わないわけが無い


「元々は私と一縷だったんだけどな。一縷の状態は雷蔵も知ってるだろ?」
「あ・・・うん」
「だからあえて学園から離すために忍務につかせるんだ。私じゃ無くても問題ないからな、雷蔵を推薦したんだ」


一縷のこと、気になってただろ?という三郎に、気を使わせてしまったみたいだと気づく
私に気にせず行って来い、と笑う三郎に、僕は笑ってありがとう、とだけ返した




片割れの気遣い







- 37 -