もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
状況整理


side:雷蔵


部屋に戻ってから、いつものように本をめくっている途中、不意に三郎が僕を見た


「なぁ、一縷と雷蔵って、鈴音さんが来たときに初めてあったんだよな?」
「うん、そうだよ」
「・・・おかしいな・・・謝られる意味が分からん」


首を捻った三郎に、僕はどうしたの?と理由を聞く
三郎自身があまり納得していない状態だったので、なんともいえない表情だったが、三郎は一縷の話なんだが、と一つ置いてから話した


「・・・アイツの部屋から血の臭いがしたから、新野先生を呼んだんだよ」
「えっ?!大丈夫なの?」


学園内で血のにおいがするほどの大怪我なんてなかなかしない
忍務帰りの上級生ならまだしも、夜でもなんでもない時間に?
三郎は今は平気そうだぞ、と言ってから、だけどと言葉を続ける


「一縷が私の顔を見て言ったんだよ、"雷蔵、ごめんなさい"ってな」
「・・・僕?」


唐突に出てきた僕の名前に、きょとんとする
だって一縷さんと僕があったのは鈴音さんが来たときが初めてで
今までに一縷さんが僕を雷蔵と呼んだことはないし、僕が一縷さんをほのかと呼んだのは・・・一度だけ、それもあの夜だけだ
決して仲が悪いわけじゃないけれど、名前で呼ぶほどは親しくない、そんな間柄のはず
それなのに唐突に出てきた僕の名前に、首を傾げるしかない
そんな僕の様子に、やっぱり分からないよなーとため息をつく三郎

不意に先ほど琴音と会話した内容を思い出した

"せっかく約束した言うてた子さがしたろ思ったのにー!"

約束した、誰かと?
幼い頃の記憶はあやふやだ
でも、それは皆似たようなもののはず
けれど、何故か、その子だけは忘れちゃいけないと、そう思っていた想いはあるのに

ハッとした
誰かと会っていた記憶が・・・まるまるない
ぽっかりと何も覚えていないのだ、琴音は覚えているのだから、それは僕が話したことのはずなのに
きっととても大事な思い出だったはずなのに


「三郎・・・僕、もしかしたら一縷さんと小さいときに会ってたのかもしれない」
「は?そんなそぶりどこにも無かっただろ?」
「小さい頃の記憶って凄くあいまいだから・・・僕も覚えてないし、一縷さんが忘れてても仕方ないよ」


三郎はがしがしと頭をかいて、まあ、その可能性もあるか・・・と呟いた



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