もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
思い出の笑顔に"さようなら"






"らいぞう"が元の町に帰ってから、私の周りは元のように誰もいなくなった
そんな毎日に、少しだけさみしさを感じた
それでもまた前のように慣れるだろうと思っていた、そんなある日
にわかに森がざわついている気がした
なぜか不安に駆られた私は、森から町へと駆け足で戻る

森を抜け、視界が開けたと思ったら、そこには見覚えのない男たちの姿
あれがゴロツキってやつだろうか?
"らいぞう"がゴロツキっていうのは危ないんだって言ってた

・・・なら、お父さんやお母さんや、近所のみんなも、危ない?

刀の切っ先を向けられた子どもが見えて
その子どもは私のことをよく鬼の子だって言ってた子供だけど、でもだからと言って死んでいいわけじゃない
そう思ったときには、私の足が動いていた

気配を絶って男の持っていた刀を奪い取り、私はそれを両手で持つと、男を切りつける
考える前に体が勝手に動いた
返り血が飛んで、ぬるりと血が垂れる



気が付けば血の海の真ん中に立っていた
周りを見渡せば、倒れているのは知らない顔ばかり
少し遠くに見知った顔がへたり込んでいるのが見えた
ぱちり、と目が合えば、見る見るうちにひきつる表情


「あ・・・お・・・"おにのこ"・・・!」


目に恐怖の色を浮かべて、叫び声をあげながら去っていく後ろ姿に、私は悲しくなった




ねえ、"らいぞう"
私、やっぱりだめだよ
おにの子はしょせんおにの子にしかなれないみたい




ぽろり、と一つ涙をこぼして、私は森に戻った
森の中にある小川につかれば、赤く染まる水
人の命をこの手で奪った
手が赤くて、赤くないはずなのに赤く見えて


「あ・・・う・・・っ」


ぼろぼろと涙がこぼれる
自分がみじめで汚く思えた
きらきらした"らいぞう"には、もう会っちゃだめだ
また会いたいなって、そう思ってだけど、私みたいな鬼の子と一緒にいたら、あのきらきらした笑顔がきっと消えてしまうから


「ごめんね・・・ごめんね・・・!」


私はあなたを忘れます



思い出の笑顔に"さようなら"






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