見送らない影 あの森で彼・・・"らいぞう"と会ってから、私は毎日が少しずつ楽しめるようになってきた この町と森以外に行ったことのない私にとって、彼が話してくれる前の町からこの町への道中にあった景色や人々の話がとてもきらきらしたものに思えたから 町での私の印象は変わらないけれど、それでも"らいぞう"にあってから、町の人たちを見る私の目が変わったとでも言えばいいのか ただ皆が怖がるから、と遠ざかるだけじゃなくて、少しずつ"私"を知ってもらって、私を受け入れてもらえたら、と思うようになった まだその勇気はないから、そうしては居ないけれど・・・ いつか、もう少し勇気がついたら、とは思う "らいぞう"に話したら、私ならきっと大丈夫だ、と笑ってくれた 「ほのかちゃんっ」 「らいぞう!」 いつものように髪の毛に沢山葉っぱをつけて、"らいぞう"がやってきた けれどその表情はいつもと違って、なんだか悲しそうに見えた "らいぞう"は私に近づき、手を握ると、目に涙をためる 「あのね、おとうさんが、あしたかえるって・・・」 「・・・え?」 愕然とする "らいぞう"はずっとここにいるんじゃないの? 心のどこかで、私はそう勝手に勘違いをしていたんだ "らいぞう"は私にごめんね、ごめんね、と何度も謝った そんな"らいぞう"を見ていれば、私は自分がどこかみじめに思えて、大丈夫だよ、と返していた その代わりに、私と"らいぞう"はこれでもかというくらい森を駆け回った "らいぞう"と過ごした日々を自分に刻み付けるかのように 次の日 森には、誰も来なかった わかっているのに、涙が出てきて、私は空を見上げて必死でこらえようとしたけれど、その努力もむなしく、涙がほほを伝った 町でその姿を見送ることなど、私にできるはずもなく ただ、森で道中彼が無事にもと居た町に戻れるようにと想うだけだった 見送らない影 → 戻 |