もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
普通の子ども



side:雷蔵



去っていった後姿を見ながら、遠くのほうで関わらないほうがいいぞ、アイツは!と話す子どもにうん、と頷きながらも、その後ろ姿から目を放せずに居た

何であんなに悲しそうなんだろう

沸いて出てきたのはそんな想い
けれどそれは後ろから聞こえてきた声で解決する


「アイツ、いっつもむひょうじょうで何かんがえてるかわかんないし、りょうしんからもきらわれてるんだ。いつ売られたっておかしくないってかーちゃんが言ってたし」


おまえも気をつけろよーと言われて、こんなにいわれたら誰だって悲しくなるし、寂しいな、と僕は思った
だって、彼が言ってるのは一方的な感情と認識だもの
僕が見た彼女は悲しそうで、でも諦めたような、そんな印象
手を伸ばしても取ってもらえなければ、それはきっと悲しいから

僕は彼との会話を打ち切って、彼女の後を追いかけた




後ろ姿を見失ったものの、向かった方向には森しかない
僕はそこで引き返すことはせず、森の中に足を踏み入れた
がさがさと鳴る草
背の丈ほどもあろうかという草を掻き分けながらさまよっていると、途中で踏み固められた獣道に出た
それを奥に進んでいき、がさと音を立てて草を掻き分ければ開けた場所に出る
顔を出した先には、こちらを見ている吃驚した表情で座る彼女の姿


「あ、みつけた!」


僕はそれを見て表情を輝かせると、思わず声を上げた
だって、やっと見つけたから
彼女のもとに行こうと勢いよく飛び出せば、何かに躓いて思い切り転ぶ
それでも直ぐに立ち上がって彼女のそばに行けば、彼女はだれ?と聞いてきた


「ぼくはふわらいぞう!きみのことが気になったから・・・きちゃった」


にこっと笑ってそういうと、彼女はぽかんとした表情を見せた
彼女は中途半端に起こしていた体勢から、身体を起こし、僕のほうに身体を向けて座った
そうして、彼女は不思議そうにこてんと首をかしげる


「どうして?」
「だって、おにの子っていわれてたけど、ぼくにはぜんぜんそう見えなかったから」


僕にとっては鬼の子でもなんでもなくて、ただ寂しがってる女の子に見えたのだ
彼女は目を見開いて驚いた表情を浮かべた
僕は驚く彼女に、名前を教えて、という
そうすれば彼女は視線をさまよわせながら、やがて小さな声で答えた


「・・・ほのか、一縷ほのか」
「ほのかちゃんって呼んでいい?」
「っうん!」


頷いて笑ったほのかちゃんの顔は、鬼でもなんでもなく、ただの年相応な可愛らしい子どもの表情だった



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