新しい町にて side:雷蔵 ――― あぁ、これ、小さいときの・・・ ――― 「おとうさん、おしごと?」 「あぁ・・・雷蔵も行くか?」 いつも家にあまり居ない父が、今日もまた家から出て行く その後姿がなんだか気になって、じっと見ていれば、かけられた言葉 いつもはそんなこと言わないのに・・・、そう思ったけど、僕は普段居られないお父さんと居られることが嬉しくて、その言葉に頷いた 「そうかそうか、なら母さんに言わないとなぁ・・・。一ヶ月くらい向こうで暮らさないといけないんだ。だから、少し荷物を持たないといけない、分かるか?」 「うん、じゃあぼくきがえもってくる!」 「あぁ、行って来い、その間に母さんに話しておくからな」 僕はお父さんに背を向けて、自分の荷物がある部屋に走っていった 部屋に行くと、少しの着替えをお気に入りの風呂敷に入れて肩にかけて斜めにしばる 再び戸口に行けば、お父さんと共にお母さんが待っていた 「雷蔵、あまり心配はしていないけれど、いい子にしてるのよ?」 「うんっ」 「あんた、雷蔵をよろしくね」 「分かってるさ、じゃ、行くか雷蔵」 「いってきます、おかあさん!」 見送るお母さんに手を振って、僕はお父さんについて道を歩く 道行く人に、可愛らしいわねぇと声をかけられながら、そんな人たちににこにこと笑顔を見せる 普段は見れないものが目新しくて、きょろきょろとしてしまうのに、お父さんはそんなのをとがめずに、色々なものを見て色々なものを学べよ、と笑いながら、僕の頭をくしゃりと撫でた 新しい町は元々住んでいた町よりも大きくて、僕はその大きさにきょろきょろしながら歩く お父さんが、仕方ないな、と言いながら僕の手を繋いではぐれないようにしてくれた 「おとうさん、これからここに住むの?」 「あぁ、ほら、あの長屋に住むんだぞ」 指差された長屋は小奇麗な外装 中はあまり大きくないけれど、僕とお父さんが住むのには十分だった 遠くに行かないという約束で、新しい長屋の周りを歩く 近くの長屋に住む子どもともあって、少し話した けれどその会話はふと途切れて、話していた子は僕じゃなくて僕の後ろ側を見ている どうしたの?と聞けば、その子はあ、ごめん、と僕に謝って、僕の後ろを指差した 「アイツ、おにの子なんだ」 「おにの子?」 「すっげーちからがつよくて、おとなだってたおしちゃうくらいなんだ。けがするから、らいぞうも近づかないほうがいいぞ」 彼が指差した先にはリンとした雰囲気を持ちながらも、どこか寂しそうな雰囲気を持ち合わせる女の子の姿 鬼の子だといわれた彼女は、ちらりとこちらを見て直ぐにどこかへ行ってしまった 一瞬だけ合ったように思えた目が悲しそうで、僕はその子が気になった 新しい町にて → 戻 |