もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
夢を見る




side:昆奈門


「・・・またずいぶんと緩くなったもんだねぇ」


別に隠してるつもりはまったく無いんだけど、とこぼしながら、すたりと慣れた様に医務室に忍び込む
まあ、実際慣れているのだが
主の居ない医務室はがらりとしていた
しかしそこに不意に現れた気配


「誰だい?」
「忍び込んだのはそちらだと思いますが」


すた、と天井から降りてきたのは桃色の影
その姿を見て、私は一縷ほのか、と口の中で呟いた

昨夜の出来事は既に耳に入っている
学園を狙っていたシャグマアミガサタケ城から送られた刺客が、ほぼ一人の手によって壊滅したと
それが目の前の少女だとは俄かに信じがたい


「私は学園に危害を与える気は無いよ、安心するといい」
「・・・今の学園は見てのとおり緩い。それに私は貴方を止める資格なんて持ち合わせていませんから」


善法寺先輩ならば部屋に居ると思いますよ、と言った彼女はなれたように薬箱から薬を取り出すと、天井にもどっていった
彼女の取り出した薬を確認すれば、それは強力な鎮痛剤
・・・怪我をしているのか、そんなそぶりは見せなかったが


「うーん、あの子いいなぁ」


着てくれないかな、ウチに、とこぼしながら、私は天井に戻った
埃っぽい天井裏を進みながら、私は口元に笑みを浮かべた
本当に、忍術学園はおもしろい




―――――
side:ほのか



新野先生から許可を貰っているものの、保健委員を通さずに取っている鎮痛剤の存在に、少々心を痛めるが、背に腹は変えられぬと私はそれを飲んだ
苦い後味に、顔をしかめつつ、私は布団に横になる
先ほど潮江先輩と食満先輩の犬猿コンビに襲撃され負った傷はぱっくりと割れて血を流す
普段は喧嘩ばかりだというのに、同じ目的を持てば癖を知っている分連携は強い
男女の差もあり、喰らった一撃は重かった


「いっ・・・た・・・っ」


身じろぎすれば焼けるように痛みを訴える
それでも飲んだ薬が効いているのか、先ほどよりは軽い
けれどそれに比例して重たくなるまぶた
今の状態で攻撃されたら確実に死ぬだろう
そう思いながらも、迫り来る睡魔に抗うことは出来ず、私は意識を闇に落とした




あぁ、これは夢だ
そう、唐突に私は理解した

幼い私が見える
あの頃から私は力が強くて、加減を間違えるだけで簡単に人を傷つけた
今でこそ加減を覚えたけれど、幼い私は力の加減を知らなかった
だからこそ私の周りには誰も居ない
親すらも、私を遠ざけようとした
居ないから、と話される大人たちの陰口は、子どもに伝わって
まねしたがるのが子どもだから、彼らは私に叫ぶのだ

"鬼の子"


私がそれを聞いて、どう思うかなんて、まったく考えずに

幼い頃は聞くたびに悲しんだけれど、誰も助けてくれる人はいなかった
・・・ただ一人を除いては




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