もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
人間の不幸は蜜の味



side:三木ヱ門



急速に広がっていくほのか先輩の謹慎
上辺の事実に翻弄される一部を除く上級生たち
僕らはほのか先輩が好きだし、尊敬もしているから、上級生が盲目に信じる鈴音さんを、理由もなくほのか先輩が殺したんじゃないってわかってる
だというのに、今僕らは先輩のために何も出来ないのだ


なあ、一縷が謹慎だってさ
聞いた聞いた、一般人の鈴音さん殺したんだし、当たり前だよな


聞こえてきた声に、ぐっと拳を握る
くやしい、言い返してやりたい
あんた達にほのか先輩の事を悪く言う資格などないと

ふいに影が出来て、振り向けば浦瀬先輩の姿
先輩は首を横に振った
それがなにを意図するのか分かって、僕はやっぱり悔しくなるのだ






「悔しいね」
「あぁ、悔しいな」


長屋に戻ればむすっとした顔で座る喜八郎と滝夜叉丸が居た
いつもならば怒っているところだが、今回ばかりは僕も何も言わない
喜八郎や滝夜叉丸と同じように、僕も悔しい思いをしているから


「今の先輩方は・・・正直、先輩だと思いたくないな」
「滝夜叉丸はいいじゃないか、七松先輩がマトモなんだから」


ため息をついて吐き出した滝夜叉丸に、僕は疲れたように言い返した
だって六年生でマトモなのは七松先輩だけだ
あの学園一忍者してるといわれた潮江先輩が、一般人だと信じて疑わない鈴音さんに顔を赤くして三禁を破っていたのを見てしまった時は本当に衝撃的だった


「それにしても、どうしてあんなに簡単に先輩達は鈴音さんにのめりこんだんだろう」
「薬などを使った幻術などかも知れないぞ、あの人自身はくの一というわけでもなさそうだった」
「くの一と入れ違ってはいたみたいだけど、最初は本人だったみたい」


考えれば考えるほど謎に包まれる答え
授業のように回答の無い問題に、頭を抱えるばかりだった



―――――
side:?


"彼"が鏡を見下ろしたとき、いつか放り出した子どもは既に居なくなっていた
その代わりに、混乱に包まれる物語が見える


「おや、見てごらんよ、人間たちが楽しいことになっているよ?」
「・・・貴方は相変わらず・・・」



鏡の中にはは真っ二つに割れた学園
ホント、頭を抱える人間は楽しいねぇ、と"彼"は哂う
その横でため息をつきながら、いい加減に次の仕事をやってくださいよ、と声をかける影
言われた"彼"は、はいはい、とやる気の無い返事をしながら、哂う顔をそのままに、仕事に手を伸ばした




人間ヒトの不幸は蜜の味




我が家の神様集団はありがちな職務怠慢系神様とそれを補佐する真面目補佐様です。これはどの物語も共通ですねぇ


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