もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
帰還






学園に帰ろうと差し出された手を取り、学園に戻ればそこには学園長先生とシナ先生の姿
小松田さんが眠そうな顔でバインダーを差し出し、私はそこに自分の名前を書く
きっと処罰を受けるだろう
そう思いながら、私は先生の前に立った


「此度は、申し訳ありませんでした」
「――無事で何よりじゃ」
「おかえりなさい、一縷さん」


頭を下げた私にかけられたのは、以外にも暖かい言葉
その様子を伺っていた茅野からもれるほっと息を吐く気配
けれどそれはだけど、と続いたシナ先生の言葉で再び緊張した気配へと変化する


「何も無かったから良かったわ、だけどそれで貴方が死んだたら私たちはどうすればいいの?優秀だと思っていたけれど、今回は軽率だったわね、一縷さん」
「後ろの彼らが居たとて、おぬしでほぼ片付けたのじゃろうし、3日は謹慎と名を打って休んでいると良いじゃろう」
「それは、罰とはいえないのではないですかっ?」
「罰を受けさせる、だなんて思っていないわ。むしろ学園を守ってくれてありがとう」


にこりとシナ先生が笑みを浮かべた
そして後少ししか時間は無いけれど、早く寝なさい、と私たちをせかす
精神的に疲れたのか、だるそうな表情をしていた4年生の3人に苦笑を浮かべながら、不破くんと鉢屋くん、七松先輩が長屋に届けるべく手を引っ張る
その後ろ姿を見届け、私は茅野に手を引かれながら長屋に戻る
途中ちらりと振り向けば、難しい顔をしたシナ先生が見えた
何故だか分からない、けれど、どこか嫌な予感を感じた


―――――
side:シナ


長屋に向かう後ろ姿はいつもと変わらない
けれど確かにあの身体には狂気が潜んでいる


「あの子をそのままにしても・・・大丈夫でしょうか・・・」
「大丈夫とは言い切れん。じゃが、一縷ならば大丈夫じゃろうて」


同じ様に一縷さんの後ろ姿を見ながら、学園長は言った
死にたがりの彼女を救ってくれる子が居ればもしかしたら
そう思わずには居られない
歴代の生徒のなかでも、群を抜いて危ないと教師のなかでささやかれる彼女はとても不安定だから


「私たちに、殺させないでちょうだいね、一縷さん・・・」


手塩をかけて育てた生徒ほど可愛いものはなく
そんな生徒をこの手で殺めるたびに、胸を痛めるのだから



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