もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
許す許さないの問題じゃなくて







膜がかかったようにぼやける意識
勝手に動くからだは私の物じゃないように暴れ回る
それでも重くなってくるからだに、遠くのほうでそろそろ死ねるかなぁと考える
やっと解放されるんだ
これで、私のせいで傷つく人も居なくなる
私も、誰にも怖がられなくなる
寂しくなくなるし、もう、苦しまなくて良くなる
茅野はそんな私をあきれるくらい馬鹿だと言っていたけれど
幼少から染み付いた意識はなかなか抜けないから

そんなときに唐突に聞こえた私を呼ぶ声


「―――ほのか!」


あれ、懐かしい・・・?
走馬灯のようによみがえる記憶

あれ、だぁれ?
ぼく?ぼくはらいぞう、きみは?
わたし、ほのか。ここのこじゃないよね?
うん、ぼくとうさんについてきたんだ
そっか、だからわたしのこと、しらないんだね
ほのかにはなにかあるの?
・・・わたしはこわいんだって
・・・?ほのかはこわくないよ、だってこうやってぼくとはなしてくれるもん


こんにちは、らいぞう!
わぁっひさしぶり、ほのか。かみのびたね
ほのかのかみはまっすぐしてて、きれいなくろいろでいいなぁ
でもわたし、らいぞうのやわらかくてちょっとちゃいといかみ、すきだよ


っあ・・・!ごめんね、ごめんねらいぞう・・・!
ほのかのせいじゃないよ、ぼくのふちゅういでけがしただけだよ
っだって、わたしがいっしょじゃなかったららいぞう、けがしなかった・・・!
ちがうよ、ほのかはわるくないもん、ぼくがよわいからだよ


知らない記憶が流れ込む
知らない・・・本当に?
ぱちり、と一つ瞬きをすれば、目の前には最近良く見た顔


「・・・・・・・・・ふ・・・わくん・・・?」


"らいぞう"と同じ髪
・・・あれ、"らいぞう"って苗字なんだったのかな
本当に、それが過去の記憶なのか、私には分からないけれど
疑いもせずに本当だと受け入れる自分が居た
・・・でも、不破くんは私のことをみて何も言わなかったし、きっと人違い
私はその考えを思考の隅に追いやった


「もどってよかった・・・」


ほっとしたように笑った不破くん
改めて周りを見れば、鼻が馬鹿になったのか既に匂いは感じられないものの、暗い闇に赤い血が見えた
ずいぶんと殺したなぁ、と他人事のように思う


「一縷」
「鉢屋くん?」


すまなかった!と頭を下げた鉢屋くんに、私はわけが分からずえ、と声を漏らす
答えを求めるように三木くんと不破くんに顔を向ければ、不破くんは困ったように笑みを浮かべて、三木くんはため息をついた


「ほのか先輩、鈴音さんのこと殺した後、鉢屋先輩たちから酷いこといわれてたし、それじゃないですか」
「私気にしてないのに・・・」
「先輩はもうちょっと怒ってくださいよ」


私たちすっごい歯がゆかったんですから!と怒る三木くんに、ごめんね、と返してから私は鉢屋くんに視線をやった
一向に頭を上げようとしない鉢屋くんに、私は少し考えてから、頭を上げて、と声をかけた
それに従い頭を上げた鉢屋くんに、私はぴし、と軽くでこぴんする
驚いた表情でおでこに手をやった鉢屋くんに、私はこれでなかったことにしていいよ、と言って笑った



許す許さないの問題じゃなくて







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