もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ
託される






学園から出て、しばらくしてから、浦瀬さんが足を止めた
それに釣られるように、僕らも足を止める
すっと目を細めた浦瀬さんに、無意識に緊張感が走った


「・・・学園に、近いわね」


耳を澄ませば、微かに聞こえる金属同士がぶつかり合う音
きっと一縷さんはそこにいるんだろう
演習のときよりも緊張した面もちの浦瀬さんに、僕はごくりとつばを飲み込んだ
対照的に、隣にならなんだ七松先輩は楽しそうな笑みを浮かべている


「あそこにほのか先輩が、居るんですか」
「相変わらずむちゃをする人だな、ほのか先輩」
「だけどそれがほのか先輩だもの」


4年生が独り言のように、けれど代わる代わるいつもの喧嘩すら嘘のように話す
その会話の内容から、一縷さんと仲が良いことが伺えて
少しだけ、羨ましいと思った


「帰れないかもしれないと心得て・・・。下手したら、ほのかに声が届かないかもしれないわ」


真剣な表情でそう言った浦瀬さんに、気を引き締めてうなずいた




進んだ先は木々の開けた場所
血のにおいを発するもとはごろごろと切り捨てられた無数の死体
すべてを一縷さんがやったのかと思うと、恐ろしい
けれど、僕の中にはもう一つ、感情がわき上がってきた

凄い、という感情

たまごなのにここまで殺すことができるだなんて
僕は何時も迷ってばかりで、殺すことすらいつも迷う
僕は忍者になるのに
迷いのない太刀筋を、少しだけうらやましく思った


「七松先輩は平と行って下さい、綾部は私と、田村は双忍と」
「分かったぞ、滝、遅れるなよー!」「はいっ、七松先輩」


手早く浦瀬さんがチームを決めて、七松先輩が飛び出すと、それに平も続く
綾部、行くわよ、と言った浦瀬さんに、はーいとマイペースに返した綾部と浦瀬さんも闇に消えた


『不破、ほのかを頼んだわ』


え、と問おうとしたときにはすでに居なかった
雷蔵?と三郎に名前を呼ばれる
慌ててそちらを向けば、怪訝そうな表情の三郎


「あ、ごめん」
「どうしたんだ、行かないのか?」
「あのぅ、ほのか先輩を助けに行きたいんですけど」
「・・・うん、行こうか」

浦瀬さんが僕にそういった理由はわからないけど
頼まれた限り、僕がやらなくちゃ
決意するように拳をにぎって
僕らは地を蹴った




―――――
side:ほのか



どれくらい切っただろう
ぼんやりとそう考える
目の前で倒れていく人がすべてどこか他人事のようだ
奪った刀が刃こぼれしたならば、また奪い、返り血を浴びて
きっと髪は血で固まりきってダメだろうな
誰かが綺麗だって言ってくれたから伸ばしてたけど
・・・誰だっけ?
思い出せない人影に思案すれど、体は勝手に人を殺していた



託される







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